プロ野球で相次ぐドーピング違反事件は、禁止薬物の影が想像以上に広く、濃いことを感じさせる。事態は深刻と言わねばならない。それぞれの件で徹底的な調査が必要ではないか。
日本プロ野球組織(NPB)は昨季から本格的にドーピング検査を導入した。今回、ヤクルトのリオス投手が一年間の出場停止処分を受けたのは三例目の違反発覚となる。一件目は発毛剤の不用意な使用だったが、五月にわかった巨人(当時)のゴンザレス内野手の件では三種類の興奮剤、リオス投手の場合は筋肉増強剤が検出されており、問題の根は深いようだ。
ゴンザレス内野手から検出された薬物は「グリーニー」と呼ばれる薬剤の特徴に一致していた。集中力を高め、疲労を忘れさせる効果があるもので、かつては米メジャーリーグで日常的に使われていたという。リオス投手の方は治療目的で使ったと説明しているが、筋肉増強剤の検出がきわめて深刻な問題なのは言うまでもない。薬物をめぐる球界全体の状況は、いったいどうなっているのか。
両選手には出場停止処分が下され、球団からは解雇されたが、これで落着としてはならない。薬物使用とは比較的縁遠いとみられてきた日本球界だけに、ファンに及ぼす影響は小さくないだろう。メジャーリーグでも「ミッチェル・リポート」で多数の薬物使用例が明らかにされ、野球のイメージは低下している。ここは徹底的な取り組みで、ファンに反薬物の姿勢を示さねばならない。
違反例からして、今後は外国人選手の獲得に細心の注意を払う必要がある。ただ、それだけにとどまる話ではない。まずは、それぞれの件の真相を球界挙げて究明すべきだ。調査は困難だろうが、そうしなければ全体の状況は見えてこない。処分と解雇で幕引きとするのでは、さまざまな疑問が残ったままになる。いかに困難であろうと、真相究明の姿勢なくして信頼の回復はあり得ない。
検査態勢の強化も課題だ。NPBの検査の件数はそれほど多くはない。施設の問題などもあるだろうが、こうして違反が続く以上、検査の強化を早急に考えねばならないのではないか。
そしてNPBや各球団は薬物使用に関する情報を常に公表していくべきだ。そうすればファンにも薬物追放の強い思いが伝わる。違反続出の衝撃を、クリーン野球への大きな一歩としたい。
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