自民党の税制調査会は1日から2009年度の税制改正に向けた議論を始める。例年は秋からの討議を前倒しするのは、消費税も含む税体系の抜本的改革を進めることになっているためだ。ただ、次期衆院選挙を意識した政治的思惑もあり、抜本改革の機運は早くもしぼみつつある。
痛みを伴う増税は政治的に不利になるという理由で、消費税率引き上げ論議を避けるのは論外だ。一方、財源不足を埋めることに焦点をあてた議論ばかりでも国民の理解は得られまい。社会保障制度の改革とセットになった税制見直しなど振りの大きい改革論議を進めるべきだ。
今回の抜本改革論議は、福田康夫首相の指導力発揮というより、必要に迫られた面が大きい。
09年度には基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げることになっており、その前提として「抜本的な税制改革で安定的な財源を確保する」と法律で定められているからだ。安定財源が見込めないと、2兆3000億円を超す財源不足が生まれる。
ガソリン税などを道路特定財源から一般財源にするのを決めたことも、抜本改革論議を迫る要因になった。自動車保有者などの理解を得るために、福田首相が「環境税の取り扱いも含めて、税制全般を見直す」と公約したためだ。
しかし、消費税については福田首相が「2、3年とか長い単位で考えたい」としたことで、議論の先送りムードが出ている。地球温暖化防止につながる税制の見直しも、産業界への影響などを考えれば、困難との声も聞こえる。税制の抜本改革という看板は掲げたものの、実際には動きにくいというのが実情のようだ。
だが、問題を先送りするばかりでは国民の不信感を買うだけだ。消費税については、例えば制度の信頼性が低下している年金の抜本改革と合わせて税率引き上げを議論するなど、何のためかがわかりやすい改革像を示すことが必要だ。
忘れてならないのは、法人税や金融課税のあり方など、経済の活力にかかわる税制の改革である。
企業が国境を越えた事業展開を加速する中では、法人税負担を可能な限り和らげ、魅力的なビジネス環境を整える必要がある。金融課税も将来は金融所得をまとめて課税対象にできるよう、損益通算ができる範囲を広げることが求められる。
税制は国のあり方を映す鏡でもある。政治的な損得勘定や帳尻合わせに終わらない、本格的な改革論議を期待したい。