政府は、経済財政諮問会議で取りまとめた重要政策運営の基本指針「骨太の方針二〇〇八」を、臨時閣議で決定した。
福田康夫首相初となる骨太の方針は、医師不足や原油高対策拡大まで盛り込んだが、将来の年金や社会保障の財源をどうするかの議論がなく、未来が見えない不満足な内容だ。
福田首相は「国民生活を重視する政治行政に取り組んでいくという方向性を示した」と述べ、生活者や消費者を重視する福田内閣の方針を反映した内容になったことを強調した。
骨太の方針の副題は、「開かれた国、全員参加の成長、環境との共生」だ。消費者行政の司令塔となる消費者庁の〇九年度の創設、地球温暖化対策を推進する低炭素社会の構築、地方を中心に深刻化する医師不足対策では大学医学部の定員を過去最大規模と同程度に増員することなどが挙がっている。福田首相が国民目線の施策で独自色を見せたといえるだろう。
事細かな施策も並ぶ。原油高騰を踏まえて、中小企業、農林業、漁業などへの対策を実施するほか、高齢者から批判を浴びている後期高齢者医療制度で、低所得者の負担軽減策を講じる、幼児教育では将来の無償化をにらんで、当面保護者負担の軽減策を充実することなどが列挙されている。
与党から例年になく強い歳出拡大の圧力にさらされた結果、あれもこれも書き込まざるを得なかったということではないか。メリハリに乏しく、この通りに各省庁が予算編成すると、歳出拡大が心配だ。
本来骨太の方針は、旧大蔵省が中心となって行っていた予算編成を官邸主導にして、日本経済を構造改革し成長路線に導くことが狙いだった。
小泉内閣が〇六年に策定した骨太の方針では、一一年度までに五年間で基礎的財政収支を黒字化する財政再建目標が盛り込まれている。今回の骨太の方針でも、一応「歳出全般にわたって歳出改革の努力を緩めることなく、最大限の削減を行う」との文言を盛り込んでいるものの、税制や社会保障などでの改革方針は先送りされた。
〇九年度には基礎年金の国庫負担割合を引き上げるために約二兆三千億円の財源が必要となるが、議論は秋からとされ、財源は明記されなかった。社会保障費の伸びを毎年平均二千二百億円圧縮する方針についても、具体的な方策には触れていない。歳出歳入に関する大胆な改革が示されないようでは、経済政策の司令塔とされてきた諮問会議の存在意義が問われよう。
有明海の漁業不振は、長崎県で行われた国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防による閉め切りが原因として、有明海沿岸の漁業者らが堤防の撤去などを求めた訴訟で、佐賀地裁は、国に堤防の排水門を五年間常時開門するよう命じた。
判決は、堤防閉め切りによる有明海全体への被害はデータ不足として認めなかったが、諫早湾内の環境変化と漁業被害の因果関係を認定した。さらに漁業者が求めてきた中・長期の水門開門調査を速やかに実施するよう異例の付言をした。
干拓と漁業被害との因果関係を否定し、中・長期の開門調査をかたくなに拒んできた国に、施策の転換を迫った画期的な判決と言ってよかろう。
長期間の開門調査は、有明海のノリ不作などの問題を受け設置された農林水産省の調査検討委員会が、二〇〇一年に実施を提言した。しかし国は干拓事業の遅れを懸念し、〇二年に約二カ月の短期開門調査を行っただけだった。
判決は開門調査を拒否する国を「漁業者らにこれ以上の立証を求めることは不可能を強いるものだ」「中・長期開門調査に応じないのは、被害の立証妨害と言っても過言ではなく、訴訟上の信義則にも反する」と強く非難している。
諫早湾干拓は、始まってしまえば方向転換できない公共事業の典型だ。環境への影響や必要性など十分な検討や調査が行われていなかったことが背景にある。労を惜しんではならない。
計画が決定されてから二十年以上の歳月が流れ、干拓地では営農が始まった。一方で漁業者は、高齢化が進み、漁業の不振から後継者難は深刻だ。事業を強引に進めた国は、漁業被害回復のため、漁業者の切実な声に応えねばならない。
(2008年6月30日掲載)