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2008年7月1日

◎舳倉島で酸性雨観測 越境汚染の悲鳴が聞こえる

 本社の舳倉島・七ツ島自然環境調査団のデータ分析で、金沢や小松で確認されなかった 酸性雨が同じ日に舳倉島で観測されたことは、都市域から離れ、日本海に浮かぶ小島が、他の地域以上に中国大陸からの汚染物質の影響を受けやすいことを裏付けている。強い酸性雨の検出は「越境大気汚染」に対する舳倉島からの警告と言えるだろう。

 この調査結果は、舳倉島が東アジア全体の深刻な問題となってきた越境大気汚染を監視 し、その影響を検証するうえでも最適の現場になり得ることを示している。金沢や小松では分からない環境変化がひそかに進行し、植生などに影響を及ぼしている可能性もある。高感度の「環境センサー」とも言える島の自然が発する悲鳴に耳を澄ませ、得られる貴重なデータを日中の環境保護協力の進展にも役立てたい。

 舳倉島での今回のデータは、日本の酸性雨が中国に由来することを強く示唆している。 五月末の大気調査では、石油や石炭など硫黄分が含まれる化石燃料を燃やした際に発生し、酸性雨の原因となる硫黄酸化物を含む粒子が検出された。国立環境研究所の調査では、日本で観測される硫黄酸化物の49%は中国起源であり、春はとくに多くなる。舳倉島で検出された物質も中国から偏西風に乗って運ばれた可能性が大きいという。

 四十八年前の舳倉島調査ではみられなかった新たな脅威だが、懸念されるのは環境への 悪影響である。島ではマツ枯れが目立ち、枯死や半枯れは北西側に多かった。強烈な潮風だけでなく、汚染物質の飛来が枯死を加速させているというのが研究者の見方である。

 石炭消費などの増加で、中国は酸性雨をもたらす二酸化硫黄の排出量が二〇〇五年に世 界最大となった。春の黄砂も汚染物質が吸着して日本に運ばれていることが分かっている。近年、日本各地で発生する光化学スモッグも中国からの汚染物質の影響が指摘され、越境大気汚染は今後さらに深刻化する恐れがある。舳倉島・七ツ島の継続調査によって、より正確で精密なデータを蓄積し、そうした実態も明らかにしていきたい。

◎年金財源に積立金 やっぱりあった「埋蔵金」

 やはり霞が関には「埋蔵金」があったということだろう。自民党の伊吹文明幹事長が約 二百兆円ある特別会計の積立金を十―十五兆円取り崩し、年金財源などに充てる考えを示した。この場合の埋蔵金とは、各特別会計で目標以上に積み上がったお金の総額を指す。役所が決めた目標が適正かどうかを精査すれば、埋蔵金はもっと増えるのではないか。

 自民党内でも埋蔵金の総額は四、五十兆円、民主党では百兆円あると指摘する声もある 。政府・与党は国民に分かりやすく説明する義務があるはずだ。

 埋蔵金論争の発端は、増税せずに歳出削減によって財政の立て直しは可能とした指摘に 対し、自民党財政改革研究会が「根拠がなく、霞が関埋蔵金伝説の域を出ない」と皮肉る報告書をまとめたことに始まる。同研究会会長の与謝野馨前官房長官や谷垣禎一政調会長ら、いわゆる財政再建派は、埋蔵金の存在を否定し、自民党の経済成長重視の上げ潮派は「四、五十兆円はある」と主張していた。

 国家財政には、一般会計とは別に、事業目的別に設けられた独立の会計がある。塩川正 十郎元財務相は、「母屋(一般会計)では、おかゆをすすっているのに、離れ座敷(特別会計)では、すき焼きを食べている」と、特別会計の不透明さを指摘した。

 政府は二〇〇六―一〇年度で、三十一ある特別会計を十七に統合し、積立金や余剰金を 国債返済などに充てる方針を決めており、積立金の取り崩しは規定路線との見方もできる。だが、これで特会の暗部にメスが入ったとは言い難い。財政が苦しいと言いながら、なぜすき焼きを食べる余裕があるのか。埋蔵金を国民の目に触れぬところで、自分たちに都合良く使おうとしているのではないかという疑念は消えない。

 増税を正論のごとく言う政治家は、埋蔵金の活用を決めた旧大蔵省出身の伊吹幹事長の 発言をどう聞くのか。埋蔵金をうやむやにして増税を求めても国民の理解は得られると考えているのだとしたら、KY(空気が読めない)と皮肉られても仕方あるまい。


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