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【から(韓)くに便り】ソウル支局長・黒田勝弘 平壌がソウルになる日

2008.6.29 03:17

 2002年、日韓による共同開催となったサッカー・ワールドカップ大会の時、ソウルでは韓国チームに対する街頭応援が数十万人の規模になり、世界を驚かせた。サポーター用の真っ赤なTシャツを着た大群衆が路上に座り込み、声を合わせ「デーハンミングック(大韓民国)!」と叫んだ。

 あの時、大群衆の熱狂風景にしてはわりと整然としていて、人びとは解散後、ゴミ片付けまでした。この整然とした“赤い大群衆”に「ソウルが平壌になったみたい」と評した外国人記者がいたことを思いだす。

 あれから6年。今度はソウルの夜の街頭を数万、数十万人(とデモ側はいっている)もの「ロウソクデモ」が埋めた。「キャンドル(ロウソク)デモ」というのは欧米を含めそれなりにあるが、数万、数十万というのは韓国がはじめてだろう。

 デモ大国・韓国の面目躍如という感じだが、一方で筆者は今回の大規模なロウソクデモに「似たような場面がどこかであったなあ?」と思った。記憶をたどり、北朝鮮の平壌の金日成広場での「たいまつデモ」を思いだした。党か軍の創建記念日、あるいは金日成・金正日父子の誕生日記念日の夜だったか、数万人(?)の隊列がたいまつの明かりを掲げ「マンセー(万歳)!、マンセー!」と叫びながら行進する記録映像だった。

 さらに平壌では、韓国の金大中大統領をはじめ外国賓客が来ると、沿道に数十万人の群衆が歓迎に動員され、花束を打ち振りながら一心に「マンセー!」を叫ぶ。

 しかし平壌のデモはソウルのデモと違って権力(政府)に動員されたきわめておとなしい(?)群衆だ。権力のいいなりに一糸乱れず行動する。

 平壌で政府に不満の反政府デモなど聞いたことがない。人びとが飢え死にしようが、強制労働や強制収容所に送られようが、モノをいう自由や外出、移動の自由がなかろうが、みんな静かに黙っているように見える。北朝鮮ではこれが半世紀以上も続いている。

 皮肉にいえば、庶民に牛肉など想像もできない食糧難の北ではデモがなく、逆に飽食の南で輸入肉はイヤだといって連日、反政府大デモが行われている。

 歴史的にも、南では何かというと政府や大統領を「独裁」といって非難しデモをするのに、北では世界が認めるあの超独裁体制に対し「独裁反対」や「独裁打倒」の声は聞こえない。

 こう見てくると、北と南は果たして同じ民族なのだろうかと思ってしまう。そして、どこか似ているようでまったく異なる? いや、まったく異なるようでどこか似ている?

 ソウル都心で毎晩、反政府デモに接しながらこのナゾ解きを考えているのだが、思いつくのは結局「やはり同じ民族だからではないか」というものだ。

 つまり、ソウルと平壌の風景はメダルの裏表ではないのか。

 たとえば北の権力者はソウルの風景を見ながら「やはりわが民は徹底的に締め付けないと不満を爆発させ統制がきかなくなる」と思っているだろう。そして人びとに、不満や文句をいわせない最も効果的な締め付け方法はマインドコントロール、つまり頭の中(思想、考え方)を統制し、それに反した場合、徹底的に処罰するという恐怖など…。

 この地で「ソウルが平壌に」ではなく「平壌がソウルに」なる日はいつくるのだろう。(くろだ かつひろ)

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