社説ウオッチング

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社説ウオッチング:北朝鮮の核申告 前進なのか、それとも

 ◇「今後の検証重要」--毎日・朝日・東京

 ◇「テロ指定解除再考を」--日経・産経

 「私の手で解決したい」--。昨年9月、自民党総裁選の街頭演説で福田康夫首相は北朝鮮による拉致問題について、こう語った。クールな言い回しが多い福田首相には珍しく、きっぱりとした口調だったと記憶する。

 福田首相は小泉純一郎元首相の初の北朝鮮訪問に官房長官としてかかわった。だが、その後、北朝鮮への厳しい姿勢で安倍晋三前首相が人気を博したのに対し、交渉継続を重視する福田首相は妥協的だと一部から批判を浴びた。それだけに、この問題は福田首相が周囲が想像する以上に強いこだわりを持ってきた課題だといっていい。

 その北朝鮮問題が、一つの節目を迎えた。北朝鮮が26日、核計画の申告書を提出し、この見返り措置としてブッシュ米大統領が北朝鮮に対するテロ支援国家の指定解除を議会に通告したことである。

 ◇「不十分な内容」

 翌27日付の新聞では、毎日新聞がテーマをこの問題にしぼり、大ぶりの社説を掲載したのをはじめ、各紙が一斉に取り上げた。

 各紙に共通しているのは、今回の申告は多くの問題を残しており、北朝鮮が約束していたはずの「完全かつ正確な申告」とは到底言えないという厳しい評価だ。

 申告には、最大関心事の核兵器情報が含まれておらず、先送りとなった。また、高濃縮ウランによる核開発計画や、シリアへの核技術支援に関する情報も別文書に記すことになったからだ。

 「これで朝鮮半島の非核化を実現できるのだろうか」(毎日)、「内容は不十分だ」(読売)と各紙が疑問を呈するのは当然だった。

 米国が北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除する手続きに入ったことも、毎日が「やはり急ぎすぎではなかろうか」と書いたのをはじめ、これをそのまま是認した社説はない。妥協に至った背景に関しても「任期切れが近いブッシュ米大統領に焦りがないとはいえまい」(朝日)など、各紙ともブッシュ政権側の事情も大きかったと指摘している。

 ただし、違いが鮮明になった点もある。申告を、それでも一歩動いたと見るのか、そうではないと見なすのかである。

 前者は毎日、朝日、東京の各紙。後者は日経、産経。一方、読売はそうした評価はせず、問題点や今後の課題を淡々と記したという印象だ。

 まず前者。毎日は「一歩、いや半歩前進と言えるかもしれない」と書き、朝日はもっと積極的に「それでも、申告自体は前進と見るべきだ」「少なくとも新たな核兵器の原料が作れない状況は一歩進む」、東京も「一歩前進ではあるが……」と記した。

 もちろん、「だが、問題は多い」としているわけだが、今後、重要なのは申告の検証であり、北朝鮮にすべての核を廃棄させる次のステップにどうつなげるかだとの認識でもほぼ一致している。

 これに対し、最も激しく米政権を非難し、テロ支援国家指定解除の再考を求めたのは日経だ。

 同紙は「ブッシュ政権はイランには厳しく、北朝鮮にはそうでもない」「脅威感覚の共有は同盟の前提であり、それがなければ日米安保条約は紙切れに近い」と指摘。同紙には珍しいほどの激しい言葉で、「最も重要な同盟国を失うきっかけとなる決定をした大統領として歴史に名を刻みたいのですか」と迫っている。

 産経は「指定解除が最終的に決まったわけではない」として外務省や与野党議員に「あらゆるルートを駆使して巻き返しを」と米国に働きかけるよう求めた。日経、産経両紙とも福田首相の対応にも批判的といっていいだろう。

 ◇拉致問題は動くか

 言うまでもなく北朝鮮の核、ミサイル開発とともに、日本にとって重要なのは拉致問題だ。今回の米国の妥協で、日米で圧力をかけるというカードが失われるのではとの懸念があるのは確かだ。日本にとっては痛手である。

 しかし、安倍政権時代、北朝鮮への圧力を強めてきたものの、拉致問題が進まなかったのも、また事実である。今回、北朝鮮が「日本との公式協議に9カ月ぶりに応じたのも米国の働きかけがあったためだ」(毎日)という側面も認識しておく必要があると考える。

 その意味で注目されるのは、北朝鮮が「拉致問題は解決済み」とのこれまでの姿勢を変えて約束した拉致問題の再調査だ。どんな再調査になるのか、早急に詰める必要があるが、この再調査を生かして打開を図る、つまり前に進めるべきだというのが、私たち毎日新聞の考えだ。米国との連携を緩めず、再調査をうやむやにさせないことが大切だ。この点でも朝日、東京と、ほぼ同じと思われる。

 「時間との競争」(東京)であり、「日本外交の胆力が、いよいよ問われていく」(朝日=25日)局面でもある。無論、福田首相もそれは十分、承知しているに違いない。私たちもこの問題の行方を今後も注視し、機会あるたびに取り上げていきたいと考えている。【論説委員・与良正男】

毎日新聞 2008年6月29日 東京朝刊

 

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