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難題山積で地球が悲鳴を上げている。そんななかでのG8サミット、主要国首脳会議である。
止まらぬ原油高に「第3次石油危機」という言葉すら飛び交っている。穀物の価格も暴騰し、「食糧ショック」の衝撃が広がっている。
1週間先に迫った北海道洞爺湖サミットはついこの間まで、地球の脱温暖化が、最大でほとんど唯一の焦点とみられていた。ところが、原油と食糧の「双子の高騰」が深刻さを増し、焦点がかすみそうな雲行きだ。
だがそれでも、脱温暖化が最も大切な課題であることは間違いない。その道を開くことは、ほかの難題の病根を除くことにもつながるからである。
原油高の背景には、心理的な要因として、遠くない将来に地下の石油資源が底をつくかもしれないという不安がある。各国が石油などの化石燃料に頼らない社会をつくる姿勢をはっきりと打ち出せば、この要因は弱まる。
穀物の値上がりの一因は、農業国の日照りである。温暖化は干ばつ被害をふやすので、日照りを防ぐためには温暖化を食い止めなくてはならない。
脱温暖化を旗印とするバイオ燃料の増産が食糧価格をさらに押し上げかねない面はあるものの、長い目で見れば温暖化を防いで農地を守ることこそが、食糧問題を解決する鍵となる。中国やインドなど膨大な人口を抱える次世代の経済大国の台所を賄うためにも、それは欠かせない。
■原油・食糧の病根を絶つ
エネルギー問題の根っこには、産業革命以来の化石燃料漬けがある。その化石燃料への依存が引き起こす温暖化は食糧問題を一層深刻にする。そんな構図が見えてきたのである。この病根を絶つ方向に大きく踏み出すことが、いま求められている。
これは経済問題を解決するだけでなく、国際紛争の芽を摘み、平和を築くためにも役立つ。
「気候の安全保障」という言葉を広めた英国のベケット前外相は、今月中旬に朝日新聞社が開いた地球環境シンポジウムで次のように語った。
「土地や水、食糧、燃料などの限られた資源をめぐる戦争は、人類の歴史が始まって以来繰り返されてきた。だが、そうした圧力が、地球上のほとんどいたるところに同時にのしかかってきたことはこれまでなかった」
海面が上がる。農地が減る。感染症の流行地図が変わる。温暖化によって起こるとされる災厄である。それが大規模な人口移動を誘発し、新しい難民問題や紛争を生み出す恐れもある。世界を不安定にしないためにも、脱温暖化が必要なのである。
■「50年半減」を正式に
では、脱温暖化の歩みを洞爺湖でどこまで進められるのか。
1年前に独ハイリゲンダムで開かれたサミットは「世界全体の温室効果ガス排出を50年までに半減する」という目標を真剣に検討することを申し合わせた。
去年暮れの国連気候変動枠組み条約締約国会議では、先進国に排出削減の義務を課す京都議定書第1期が12年に終わった後の枠組みづくりを09年までに仕上げることで合意した。
今回は、少なくとも「50年までに半減」を正式の国際目標とする必要がある。そのうえで、確実に達成するための通過点の目標も示してほしい。
「50年までに半減」は、世界の科学者の知恵を集めた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の見立てをもとにしている。
その報告書には、温暖化の悪影響が全地球に及ぶのを避けるシナリオが描かれている。重要なのは、50年に必要な削減幅だけでなく、世界の排出増をいつまでに止めるべきかをセットではじき出していることである。
それによると、50年に半減するなら20年ぐらいまでに排出量を減少に転じさせなければならない。これは密接不可分のひとつながりの目標である。
「50年」が子や孫の時代であるのに対し、「20年」は現役世代がまだ社会の中心にいる近未来である。だからこそ、いま中期目標の旗を振ることが求められているのだ。
心配なのは、脱温暖化を先進国がどこまで担い、途上国がどう応分の責任を果たすかで、米国と、中国など急成長中の途上国との間の思惑が交錯し、「50年までに半減」を目標に掲げることに暗雲がたれ込めてきたことだ。
■「数字付き」の宣言を
まずは世界全体の目標をはっきりと掲げることが大事だ。先進国と途上国が負担をどう分かち合うかは、それからの議論である。
そもそも分担の枠組みは固定したものにすべきではない。途上国のいくつかが、数十年後には先進国になっていることは十分に予想される。そうした経済のダイナミズムを織り込みつつ、賢明な分担法を考えていけばいい。
今年のサミットは、温暖化の問題を「ブッシュ後」の米国をにらみながら話し合う。次期大統領がだれになろうともブッシュ大統領よりは前向き、との期待から、今年は議論に弾みがつかないことも考えられる。だが、地球を化石燃料漬けから救いだす決意をするには、山積する難題の病根がはっきり見えた今年こそがチャンスだ。
首脳たちの「数字付き」の宣言を洞爺湖の湖面に響かせてほしい。