北朝鮮が核計画申告書を六カ国協議議長国の中国に提出した。昨年末までとしていた約束をようやく守った。ブッシュ米大統領は、見返り措置として北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除を決定し、議会に通告した。四十五日後に発効することになっている。
行き詰まっていた六カ国協議が加速し、朝鮮半島の非核化が進むと期待したい。しかし、まだ申告書を提出したにすぎず、六カ国協議の最終目標である核兵器廃棄への道筋が見えたわけではない。これまでの北朝鮮の不誠実な態度を考えれば、楽観できず、慎重に北朝鮮の真意を見極めなければなるまい。
まず取り組むべきは申告内容の徹底的な検証だ。昨年十月に公表された六カ国協議合意文書は、北朝鮮が「すべての核計画の完全かつ正確な申告」を行うとしている。
協議筋によれば、申告は抽出したプルトニウム量は約三十キロとし、約二キロを二〇〇六年十月の核実験に使用したと説明する。核関連施設のリストや核開発の経緯も書かれているが、核兵器の製造施設や配備状況は軍事機密として開示を拒否しているとされる。六カ国協議の合意内容とは程遠い。
米国はプルトニウム生産量を最大約五十キロと推定していた。申告量が少なかったのはなぜなのか、納得できるまでの調査が欠かせない。
北朝鮮が否定する高濃縮ウランによる核開発とシリアの核開発協力については申告本文と切り離し、別文書を既に米国に提出済みとされる。米側は、北朝鮮が「現在は一切手を染めておらず、今後もそうした活動に従事することはない」としているというが、確認と監視が重要になろう。
ブッシュ大統領は、テロ指定解除の発効までに申告内容を検証すると強調し、北朝鮮が協力しなければ指定解除手続きの撤回や再指定、新規制裁発動の可能性があると警告した。検証体制の確立が急がれる。
日本は、米国のテロ指定を圧力にして北朝鮮による拉致問題の解決を図りたいとしてきた。大統領は、「米国は拉致問題を極めて真剣に考えており、置き去りにしない」と語っている。日本政府は性急に解除しないよう米国へ強く要望すべきだ。
任期が来年一月までと残り少なくなったブッシュ政権が、外交成果を焦るあまり北朝鮮との間で非核化をあいまいにしたまま決着することは許されない。北東アジアだけでなく、世界の平和と安定にとって脅威が続くことになる。
激しい米軍機による爆撃で甚大な被害と多くの犠牲者を出した岡山空襲から、きょうで六十三年を迎えた。岡山市では市主催の戦没者追悼式などが行われ、犠牲者の霊を慰め、平和への誓いを新たにする。
米軍資料によると、岡山空襲は午前二時四十分すぎから約一時間半にわたって行われたという。B29の編隊による焼夷(しょうい)弾の投下で、当時の市街地の六割以上が被災した。犠牲者は千七百人を超えるとされるが、二千人以上との指摘もある。
市デジタルミュージアムで開催中の「岡山戦災の記録と写真展」で、幅約三十センチ、長さ約四・五メートルに及ぶ空襲直後の市街地の写真が入場者の目を引き付けている。十数枚の写真をつなぎ合わせ、ほぼ三六〇度に及ぶ。ごく一部のビルを残して広がる焼け野原が、空襲のすさまじさを物語る。
歳月の経過が風化の懸念を強める中で、高齢者が体験を伝える。当時、深柢国民学校四年生だった有志がまとめた「岡山空襲 63年目の証言」も、その一つ。降り注ぐ焼夷弾の恐怖や、側溝の泥水を体にかけて熱風をしのいだ苦難、家族や知人を失った悲しみなどが生々しく記されている。
このほか、学生時代に体験した空襲を寸劇にして母校で演じた女性たちもいる。本紙の読者投稿欄「ちまた」にも多くの体験が寄せられた。いずれも「今のうちに伝えなければ」との危機感から発したものだろう。
現在の平和や繁栄は多くの尊い犠牲の上に築かれた。にもかかわらず、平和のありがたさや命の大切さを軽んじる風潮がある。悲惨な戦争を繰り返さないため、「語り部」たちの訴えをしっかりと受け止めて、次に伝えていく取り組みに力を注がなければならない。
(2008年6月29日掲載)