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療養病床の削減難航 国の計画、実情と合わず

2008年6月29日3時1分

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 高齢者の医療費を抑えるため、長期入院患者がいる療養病床を削減する計画で、厚生労働省の目指すベッド数に対し、都道府県の目標値が約2割多いことが分かった。12年度末までに35万から18万に減らす計画は国の医療費抑制策の柱の一つだが、見直しを迫られそうだ。

 療養病床は、長期療養が必要な高齢者が入院する医療施設。厚労省は全国の病院アンケート結果をもとに、「療養病床の患者の半数は治療の必要度が低い」として、06年の医療制度改革で大幅削減を決めた。実現すれば、医療費4千億円が削減されるという。

 国の指示で、各都道府県が削減計画を作成。作業中の新潟、奈良、佐賀の3県を除く44都道府県の計画数を合わせると、国の目標より約3万多い20万9479。3県分を加えれば22万程度になる見通しだ。

 国の狙い通りに進まない背景には今後、団塊の世代の高齢化などに伴って患者が大幅に増えることへの懸念がある。人口が多く、急激な高齢化に直面する東京都は増やす計画で、現状を約8200上回る2万8077だ。

 厚労省は療養病床を削減するのに伴い、治療の必要度が低い患者は介護施設に移ってもらう計画だ。療養病床を医療機能を高めた新しい介護施設に転換させて受け皿とする。転換を促すため、治療の必要度に応じて患者を3分類し、最も軽い患者に適用される診療報酬を大幅に引き下げた。治療の必要度が低い患者が多いと採算が取れないようにした。

 しかし、医療機関側は診療報酬と比べて介護報酬が低いことなどを理由に消極的だ。

 既存の介護施設もあてにできない。比較的安い費用で入れる特別養護老人ホームは、待機者が全国で38万人。介護保険の財政難から、国は介護施設の新設を抑えており、療養病床からの転換分を除き、大幅増は期待できない。在宅介護も共働き家庭や高齢者のみの世帯では難しい。

 自治体の間からは、国の計画は高齢者福祉の実情と合わないと批判の声が出ている。中部地方のある県は「介護施設では医療が必要な患者を支えきれない。在宅介護を進めようにも、往診する医師は少なく、訪問介護の事業所も減っている。医療と介護両方が必要な患者を支えてきたのが療養病床。医療と介護の切れ目のないサービス提供体制があってこそ、医療費の削減につながる」と指摘している。(前田育穂)

     ◇

 〈療養病床の削減計画〉 介護施設不足や家庭の事情などで退院できず、本来は入院の必要がない「社会的入院」をなくし、医療費を抑制しようとする厚生労働省の計画。

 療養病床には、緊急の治療を受けたり、リハビリテーションを受けたりした後、引き続き一定の医療ケアが必要な人が入院している。患者には、脳梗塞(こうそく)の後遺症でまひが残り、鼻から通した管で栄養を取らなければならない人や、たんの吸引が必要な人、認知症で寝たきりの人などが多い。救急病院などの医療機関から入院する人が4分の3を占める。

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