余録

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余録:ミトモナイ

 17世紀初めにイエズス会の宣教師がポルトガル語で編んだ「日葡(にっぽ)辞書」は、日本語の変化を知るうえで貴重だ。邦訳があり、ローマ字表記で「ミトモナイ」という語を引くと「見るのが嫌なこと」「見るにたえぬこと」とある▲この言葉、もともとは「見とうもない」が変化して「見苦しい」「外聞が悪い」といった意味の「みっともない」になったようだ。このところ、つくづくミトモナイと思うものの一つが、昨年から絶え間なく続く食品偽装スキャンダルである▲「飛騨牛」ブランドで等級の劣る牛肉を販売していた岐阜県の食肉販売業者の場合は当初、偽装は従業員の仕業と堂々と強弁していた。何やら船場吉兆を思い出させたが、結局自らの指示と認めた。「みっともない」のそしりは免れない▲同じ業者の豚肉の産地偽装や消費期限切れ肉のミンチ混入などの疑惑が報じられるなか、今度は大阪の業者らによるウナギの偽装販売の発覚だ。大量の中国産ウナギのかば焼きが、国産の「一色産」ブランドのシールをつけて売られていた▲こちらは水産業界最大手マルハニチロホールディングスの子会社もからんだ話だ。大阪の業者とその子会社とで偽装への関与について主張が食い違う。担当者に口止め料1000万円が渡ったとか、1億円で責任をかぶるかぶらぬの話があったとか、その内幕も「みっともない」▲あの手この手の偽装と、恥も外聞もない無責任ぶりを見せられる消費者は、怒るよりもあきれている。これでは食品のブランドなど信用できない、もうミトモナイという人もいるだろう。食品業界も、行政も、消費者のあきれ顔をこそ心底恐れてほしい。

毎日新聞 2008年6月27日 0時00分

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