イタリア・フィレンツェの世界遺産に登録された地区にある「サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂」に日本人旅行者らが書き残した落書きが相次ぎ問題となるなか、水戸市の私立常磐大高(浅岡広一校長)の硬式野球部監督(30)が大聖堂の柱に書いたとみられる落書きが見つかり、県高野連が調査に乗り出したことが28日、分かった。同校野球部は7月5日から始まる第90回全国高校野球選手権県大会に出場予定。県高野連は30日に、同校や監督らから詳しい事情を聴く。
県高野連が入手した大聖堂の柱の写真では、問題の落書きは監督、妻と同姓同名の名前が漢字で油性ペンのようなもので記され、2人の名前をハートマークで囲んでいる。回りには日本人のものとみられる多くの落書きのほか、英語やハングルの落書きもある。
監督は以前、新婚旅行でイタリアを訪問しているという。
県高野連の藤枝武博理事長は産経新聞の取材に対し、「複数から落書きについて指摘を受けた。事実関係を学校側に問い合わせたところ、『調査中』との回答を受けた。週明けに校長や本人らから詳しい事情を聴く予定だ」と話している。
一方、同校は「あくまで調査中。週明けに正式回答をさせていただきたい」としている。
同校野球部は平成5年に創部。部員60人。創部翌年に現在の監督が就任して以降、急速に力をつけ、昨年夏の県大会では準優勝。昨秋の県大会でもベスト8に入った。今夏もシード校に指定され、初の甲子園出場を目指している。
大聖堂の落書きは今月になって相次いで発覚。研修旅行で訪れた岐阜市立女子短大の学生が今年2月、大聖堂の見晴らし台の大理石の壁に、油性ペンで学校名の略称や自分と友人5人のニックネームを落書き。また、京都産業大学の学生3人が3月、観光で訪れた際に大聖堂の柱に名前や学校名などを油性ペンで落書きした。
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■自己愛の暴走/記念写真感覚
コラムニストの勝谷誠彦さんの話「誰でも簡単に海外に行ける時代で、『そこに行った』という達成感を得ることだけが目的になっている。どうにかその達成感を表したいから、落書きという安易な方法をとる。実名まで書いてしまうのは自己愛の暴走。自分を『世界に1つだけの花』と思いこむ人間が増えて、そこに自分という存在が残ったと勘違いしてしまう。豊かなようで、精神の貧困な時代の象徴だ。野球部監督も、もし落書きをしていたとしたら、そうした1人にすぎないということ。立場があるのだから、きちんと謝ればいいこと。辞任だとか、重い処罰を受ける必要はない」
社会評論家の赤塚行雄さんの話「昔から相合い傘の落書きが街角の壁にあるなど日本人は落書きに対して割と寛大なことが底流にある。落書きといっても汚い言葉を書くわけでなく、記念写真を撮る感覚で証拠を残したいという軽い気持ちから書いている。だが世界の歴史的建造物となると意味合いが異なる。外国では宗教が教育の中心にあるが日本は違う。かつての日本では『修身』が、モラルを示していた。勉強だけできればいいという現代社会の歪みがこうした問題を起こしているのかもしれない」
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【用語解説】サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂
カトリックの教会でイタリアの観光都市、フィレンツェのシンボル的存在。1296年から約140年かけて建設されたイタリアのゴシック建築と初期のルネサンス建築を代表する建築物で、外装はクリーム色の大理石をベースにしている。世界最大の石積み建築ドーム(高さ107メートル)。聖堂としては世界で4番目の大きさとされる。
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■最近起きた主な落書き事件
年月(平成) 被害施設や場所 内容
20・ 4 「竹林の小径」の竹(京都)イニシャルや相合い傘
善光寺の本堂(長野) 白いスプレーで楕円(だえん)や線
19・10 熊野古道(和歌山) アスファルトにカラースプレーでローマ字
9 鳥取砂丘(鳥取) 名大生が斜面に縦15メートル、
横50メートルで「HUCK」と刻む
18・ 4 法隆寺東大門(奈良) 「みんな大スき」などの傷
名古屋城の東南隅櫓(愛知)人名などの傷
14・10 琉球王家別邸(沖縄) 通用門にマジックで意味不明の言葉
13・12 原爆ドーム(広島) 外壁に炭のようなもので
「NO MORE RACIZM」
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