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社説:新コミッショナー ファン代表の目線で改革を

 プロ野球の新しいコミッショナーに7月1日、前駐米大使の加藤良三氏が就任する。大リーグ通で、大のつく野球ファンと伝えられる。難問山積の日本球界の改革に全力投球してもらいたいものだ。

 歴代コミッショナーは法曹界か行政畑の出身者が多かった。加藤氏も例外ではない。球団間のトラブルや外部との折衝で、大所高所からの判断が求められる「法の番人」としての職責が、そうした人材を求めていた。

 だが今回、プロ野球界はこれまでのコミッショナーとは違った役割を加藤氏に期待している。

 前任の根来泰周コミッショナーは社団法人日本野球機構の定款と、日本プロ野球組織の憲法ともいえる野球協約の改定に力を尽くしてきた。その改定作業はほぼ最終段階を迎え、今秋にも新しい定款と協約が発効する運びとなっている。

 改定案によると、コミッショナーは日本プロ野球組織の代表者として執行機関のトップに位置づけられている。従来の司法的な役割に代わり、球界全体の利益を追求する最高責任者として加藤氏にリーダーシップを発揮してもらおう、というのが今回の人事だ。

 大リーグ事情に精通した加藤氏を新コミッショナーに迎えた12球団オーナーの視線の先に、空前の繁栄に沸く大リーグの姿があるのは間違いない。

 現在の大リーグ・コミッショナー、バド・セリグ氏は92年からの代行を経て98年に就任。アメリカン、ナショナル両連盟の会長ポストを廃止して指揮系統を一元化し、3地区制への再編や交流戦の導入、球団の年俸総額をもとにした「ぜいたく税」の徴収など次々と大改革を推し進めた。その結果、昨年の大リーグの総収入は60億ドル(約6400億円)に達し、代行就任時の約17億ドルから3・5倍にふくらんだ。

 加藤氏は「日本のプロ野球を敗者にしない」と抱負を語った。身近に接してきた大リーグの成功例が頭にあるだろう。豊富な知識と野球への愛情に加え、日米の幅広い人脈を駆使し、曲がり角にさしかかった日本球界の改革に大なたを振るってもらいたい。

 気がかりな点もある。今回の協約改定はコミッショナーの権限を強化しただけではない。オーナー会議を「最高議決機関」と位置づけ、従来は「意に反して任期中に解任されない」と規定していたコミッショナーの身分保障を削除し、任免権をオーナー会議に付与する予定だ。オーナーたちが自分たちの痛みを伴う改革までも新コミッショナーに託すことができるだろうか。

 プロ野球はオーナーの独占物ではない。全国の野球ファンが真の意味でプロ野球を支えている。加藤氏には「野球ファンの代表」の目線で思い切った改革を進めてもらいたい。

毎日新聞 2008年6月29日 東京朝刊

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