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「FFインフレ」が米欧や、中国、インドなど新興国・途上国の経済を脅かしている。原油(燃料=fuel)と穀物(食糧=food)の高騰によるインフレだ。傷が比較的小さかった日本へもこの波が及んできた。
5月の全国消費者物価が、生鮮品を除く総合指数で前年同月に比べ1.5%上昇した。消費税の影響を除くと、15年ぶりの大きな上昇幅だ。
3〜4%の物価上昇が続く米欧、2けた上昇のロシアに比べれば、日本はまだインフレと呼ぶほどではない。ただ、昨年までは物価の下落が続き、政府はデフレからの脱却宣言をめざしていた。がらりと局面が変わったと見るべきだろう。
モノが売れ、企業業績が伸びる成長経済にともなって1.5%くらい物価が上がるのなら、むしろ望ましい。政府がめざしていたのはそういう経済環境だ。ところが、いまの物価上昇はもっぱら輸入資源の高騰によるもので、資源国に富を吸い取られている。
消費者はすでにインフレの痛みを実感している。なにしろ、ガソリン価格は過去最高を更新し続け、1リットル180円に迫ろうとしている。航空運賃やクリーニング代も上がっているし、電気料金は来年に向けて本格的な引き上げが検討されている。穀物高騰で、カップめんやパン、冷凍食品などの加工食品も軒並み値上がりした。
ニューヨークの原油相場が1バレル=140ドルを突破し、資源高騰は続いている。国内物価の上昇は今後さらに進む可能性が大きい。
ただし、日本で警戒すべきなのはインフレの高進より、むしろ景気後退の方だろう。まだデフレの後遺症が残っており、国内で物価上昇の連鎖を引き起こす恐れは少ない。
逆に、賃金が伸び悩み、消費者の買い控えが強いので、食料品や日用品はコスト高を転嫁しにくい環境にある。物価の上昇は消費を冷やし、企業収益を悪化させていく。6年以上続いてきた景気回復は、すでに終わっているのかもしれない。
日本銀行が利上げしなくても、景気の悪化がインフレを抑えていくことも考えられる。だが、0.5%の政策金利では景気悪化を防ぐための利下げ余地がほとんどないのが悩みだ。
限られた資源を使うのは先進国だけではなくなった。人口の大きな新興国も争って手に入れようとしている。この新しい需給関係のもとで価格体系が固まるまで、FFインフレは続くだろう。企業は省エネ・省資源と代替エネの開発に力を注ぐしかない。
消費者の多くは、スーパーの安いプライベートブランド食品を買い、マイカー利用を減らすなどして生活を防衛してきた。それで今後も切り抜けられるか。厳しい時代が続きそうだ。
フィリピンのミンダナオ島といえばバナナやパイナップル産地のイメージがまず浮かぶ。だが実は、分離独立を求めるイスラム武装勢力と政府軍とが対立する「紛争の島」でもある。
国際テロ組織アルカイダとの関係が指摘される過激派アブサヤフの拠点もある。30年以上にわたる戦闘の犠牲者は数万人に達するという。
この紛争に終止符を打とうと、アロヨ大統領が最大の反政府武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)に具体的な和平の条件を示し、交渉を呼びかけている。
だが、そもそも和平に向けた交渉は7年前からマレーシア政府を仲介役に進んでいた。それを停滞させたのは比政府自身だった。
5年前の停戦合意以後、国際停戦監視団が入って状況を安定させる一方、昨年末には交渉の末に非公式ながら暫定的な和平合意案ができた。ところが、自治の範囲など細部で比政府側が難色を示し、正式合意が暗礁に乗り上げていたのだ。
しびれを切らしたマレーシア政府は先月、国際停戦監視団に派遣していた自国の約30人を帰国させた。8月末には残りの十数人も引き揚げるという。
キリスト教の影響力が強いフィリピンにあって、ミンダナオの独立闘争はイスラム教徒の運動でもある。それだけに国際停戦監視団にはイスラム諸国が要員を派遣している。その中核のマレーシアが手を引くそぶりを見せたことが、比政府に決断を促した形だ。
関係者によると、今回の比政府の提案は十分、検討に値する内容が含まれているという。これを足がかりに交渉を再開し、出来るだけ早く和平合意にこぎつけてもらいたい。
日本としても他人顔ではいられない。福田首相は、日本が地域紛争の解決に貢献する「平和協力国家」を目指すと表明している。日本政府も、ともすれば国内では見過ごされがちなこの地域の和平実現に、積極的にかかわっていきたい。
停戦監視の枠組みは国連の平和維持活動ではない。だが日本政府は、2年前に国際協力機構出身の専門家を監視団に送り込む一方、政府の途上国援助(ODA)を使って紛争地の人々の生活基盤や暮らしを支援してきた。
監視団には、ブルネイとリビアの十数人が残っているが、武力衝突事件が起きている。このままでは停戦が崩れかねない。和平機運を保つため、日本は草の根支援を強化し、専門家の派遣をさらに増やすべきだ。
紛争当事者を日本に招き、交渉再開のための協議の場を提供することも検討してはどうか。
この地域では、日本の外交的な存在感は決して小さくない。さまざまな形で力を発揮できるはずだ。