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2008年6月29日

◎石川の新エネルギー 期待したいバイオマス発電

 宝達志水町で来月から本格稼働する日本最大級のバイオマス発電所は、石川県の「身の 丈」に合った新エネルギー計画、CO2(二酸化炭素)対策と呼べるのではないか。コストや効率の面でまだまだ課題はあるにせよ、燃料になる間伐材は適切な山林管理をすれば、枯渇する心配がない。林業の振興と里山の保全にも役立つうえに、CO2排出削減義務を各電力会社に割り当てた新エネルギー特措法(RPS法)の趣旨にも合致する。穴水町で国内初の実証実験が行われている「木くず」からガスを取り出し、エンジンで発電するタイプと合わせて、バイオマス発電の将来性に期待したい。

 バイオマスは、光合成によってつくられた樹木や草花、牧草などの有機物とその廃棄物 (間伐材や生ごみなど)の総称で、これらを燃焼させて発生するCO2は、すでに成長過程で空気中から取り込んだものであるとの考え方から、CO2の新たな発生とは見なされない。森林資源に恵まれている米国やドイツ、北欧諸国では、バイオマス発電が盛んだが、日本では実用化が遅れている。

 宝達志水町のバイオマス発電所は、木材チップに熱を加えてガスを発生させ、発電する 。発電出力は一時間あたり二千七百六十キロワットで、年間二万三千トンの木材チップを使用する。北陸電力は、昨年六月から、敦賀火力発電2号機で、「木くず」を石炭に混ぜて燃焼し、年間一万一千トンのCO2削減を目指す実験を始めた。能登をはじめ、北陸には森林が豊富にあり、せっかくの資源が眠ったままである。石油価格が高騰するなか、これを資源として生かさぬ手はない。

 バイオマス発電が欧米で盛んなのは、森林を資源として使う仕組みが確立しているから である。日本では木材自給率が二割を切り、膨大な木材資源がほどんど活用されず、朽ち果てるままになっている。森林にもっと人の手を入れ、捨てられている木材を木材チップに加工し、エネルギー源として活用する日本型システムを確立できれば、林業の活性化にも大いに役立つ。木材チップの供給量を徐々に増やし、バイオマス発電を地域振興につなげたい。

◎タクシー半額制度 会議誘致へ一つの知恵

 会議や学会、大会などで富山県を訪れた人が観光する場合、タクシー料金を半額にする 制度が北陸信越運輸局の認可を受け、全国初のサービスとして七月から実施されることになった。地方で開催される会議などでは、観光を楽しむ「アフターコンベンション」が重視されるだけに、その魅力づくりとして割安タクシーに着目したことは、地域間で激しさを増す開催誘致を有利に進める一つの知恵といえる。

 決まったコースを巡るバス観光と違い、タクシーなら参加者の多様な要望に応えること もできる。会議日程のわずかな空き時間を活用しようとすれば小回りのきくタクシーが適しているだろう。県は来年度末まで試行して効果を検証するが、使い勝手のよい仕組みにして制度を定着させてほしい。

 この制度にはタクシーの法人、個人合わせて五十九事業者が参加し、富山県内九市で開 催される一定規模以上の会議などが割引対象となる。希望者に半額券を渡し、割引分は県と市が各二割、タクシー事業者が一割を負担する。

 周遊観光は運賃収入が大きく、タクシーとしては最も開拓したい分野だろう。自治体に とってもコンベンション誘致だけでなく、需要が伸び悩むタクシーの振興策という点でも取り組む意義がある。

 制度導入に合わせ、県と県タクシー協会は観光ガイド養成講座を開講し、受講した乗務 員が案内する仕組みとなる。料金面にとどまらず、接客サービスも向上させるのがこの制度の大きな特徴だ。

 タクシー業界は供給過剰による経営悪化が進み、石川県でも今年に入って多くのタクシ ーが運賃を引き上げた。だが、値上げは客離れにつながりかねず、利用者を増やすにはやはり魅力的なサービスがいる。今回のようなアイデアを提案すれば、需要を掘り起こせる余地はまだまだあるはずだ。

 石川県や金沢市でも公共交通や観光振興の担い手として、バスだけでなく、タクシーを 生かすような交通実験があっていい。その場合、経営努力を惜しまない事業者を支援し、業界の自助努力を引き出す視点が重要となろう。


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