天衣無縫、無手勝流だ。東京で会社勤めをしながら、ジャズバーでピアノを弾いたり、クラブでDJをしていた06年、会社を辞めた。音楽活動のため? 「ただ寝たかっただけです。スローライフに入ろうかなと」
1カ月で飽きた。今度はギターを始めようと思い、ボサノバギターを買った。「なんとなくです。いつも理由なんかないです」
ギターを手にしてわずか1週間後、ボサノバの本場ブラジルにどうしても行きたくなった。2カ月滞在し、聴けるだけ聴いた。実は、発祥の地なれど、若い人は「あんな古くさい音楽」と見向きもしない。しかし、強烈な印象が残った。「ドロドロしてて、すごい怪しいにおい。でも、どの曲も悲しかった。魂が抜かれる感じでしたね」。この旅があったから、ボサノバを歌っていると思う。
帰国後、大阪の事務所に所属し、大阪に居を移した。この街を音楽に例えると? 「ガヤガヤしてそうで、歴史があって、哀愁がある感じ。ラテン音楽ですね」
昨年7月にアルバムデビュー。今月、2枚目となる「Bossa@NILO~Ipanema」を発売した。アレンジを効かし、ライブで「歌詞の意味が知りたい」という声があったので、自分で訳した日本語歌詞を付けた。おかげで、名曲「イパネマの娘」の歌詞の意味を、私はようやく知ることができた。
「ボサノバは、時間の流れがふっとゆっくりする。何も考えないでいい美学」。今回のアルバムは「ビールにお勧めの1枚なので、昼下がりにどうぞ」。試してみます。
音楽にとどまらず、スポーツバイクにはまって、取材・執筆して自転車雑誌「読む自転車」を4月に発行。「泳ぐのをやめたら死ぬマグロって、よく言われます」。スローとはほど遠く、信条は「太く短く」。「ブラジルの人も言ってました。『好きなもの食べて好きなもの飲んで死んでいくのよ』って」。ラテンの血が彼女を駆り立てる。【松井宏員】
7月9日(水)19時半、大阪市浪速区桜川1のフラミンゴ・ジ・アルーシャ(06・6567・4949)。前売り3000円。
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「輝き続けるためには、戦略、戦術を考えないと。常に戦争なんです」
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■人物略歴
81年7月9日、北海道生まれ。名字の二口(ふたくち)から、ニックネームがニロ。
毎日新聞 2008年6月28日 地方版