きょうでプロムナード・レコーズ白井俊哉さんの買い付け日記の連載は終了。金曜の夜の「ジャズ&ジャイヴ」に、ぼくのオーダーしていたレコードを持ってきてくれました。取り置きしてもらっていたのは、ビル・ヘイリー&ザ・コメッツのメキシコ盤のアルバムと、トロージャンズの12インチ、そしてプリファブ・スプラウトのデビューから2枚目の7インチ。ああ、レコードって、まさに「チープ・スリル」、だと思うのです。

BOOT BEAT神谷直明くんが「アレッ、白井さん、きょうアメリカから戻ったんですか?」って言ってるのを聞いてましたが、まさかこの連載、リアルタイムの日記だと思ってたわけじゃないですよね。

「ミュージック・マガジン」という雑誌の最新号の「CDはどこへ行く」という特集ページで、ぼくはなぜかインタヴューを引き受けていまして。でもCDがどこへ行くか、なんて、それは誰にもわからない。ただレコードからCDに移行するときに、「レコードはどこへ行く」という特集は一度も見たことがなかった。オーディオ関係の雑誌では、議論されていたのかな。とは言え、音楽雑誌からすれば、引き続きクライアントが広告を出してくれているのだから、何の違いもない、と、そのときは思っていたのでしょうね。

長らく音楽ソフトは家電メーカーが新しいハードを発表することに追随して、パッケージのかたちを変えてきました。だれかがレコードプレイヤーを作ったから、レコードが出来た。こんどCDプレイヤーを作ったから、アナログからCDに切り替えましょう。いや、これから売りたいのは携帯ですから、配信、でよろしく。大型家電量販店とか、カメラ屋さんとかには通達しているのかもしれませんが、すくなくとも音楽家のところにはインフォメーションはありませんでした。

ピチカート・ファイヴで「ベリッシマ」というアルバムを作り終えて一週間後のある朝、ディレクターの河合マイケル、という人から、こんどソニーではもうレコードを作らないんだよ、と電話で言われたときの驚きは、忘れようもないですね。だから、この先、「いま作っているアルバムですけど、もうCDとしてはリリースしませんのでヨロシク」、と言われても、驚かないです。ああ、やっぱり、と思うだけでしょうね。それ以前にアルバムを作る、という仕事がなくなるのが先かな。

それでも音楽は、過去の音楽は、過去の音楽を素晴らしいと思う気持ちは、これからもずっと残る。そして白井くんのような人が、ああ、だんだんレコードが買えなくなってきた、なんて嘆きながらも、それでもしたたかに、イイ音楽を探してくる。そういう時代がしばらく続く、のかな。希望的観測。白井くんはまた来月、買い付けの旅に出るそうです。

明日からはいつもの「レコード手帖。」日替わりスタイルでお届けします。原稿執筆者の皆様、どうぞよろしくお願い致します。もうストックはほとんどゴザイマセンので。

いよいよビーチェさんの特集も近々。7月23日発売のアルバム「かなわなかった恋のために」は、CDと配信と、同時リリース。いろんなところで、いろんな人に、こんどビーチェさん、出ますよね、大ファンだったんですよ、と主に30代後半の方に言われましたが、こんなに潜在的ファンが多かったのに、どうしてブレイクしなかったの? と思ってしまうほど。皆様、こんどこそ。では、きょうも。

(小西康陽)