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資源ウォーズの世界地図

リン鉱石と食糧危機

世界には、1日2ドル以下で生活している人たちが26億人いると言われている。特にアフリカの歯止めの利かないインフレと食料価格高騰は、これらの人たちを直撃する“正に暴風”(Perfect Storm)だと表現されている。

 2030年までに世界の食糧生産を50%増やさなければ10億人の人たちが飢餓に喘ぐことになると言われる。アフリカの穀倉地帯であったジンバブエでさえ、ムガベ大統領の失政もあるが、26%のインフレが1日1ドル以下で暮らしている人たちを襲い、食料不足から抗議行動が頻発している。スーパーの食品棚には何もない映像が最近のテレビに映っていた。

 このような食糧危機と言える状態の原因はいくつかあろう。

 その1つは、アジア特に中国、インドそして南米の経済成長による需要増と原油高騰に伴うインフレによる食料価格高騰。2つ目は、中国、インドネシア、ベトナム、エジプト、ロシア、ウクライナといった国々の食料輸出規制。3つ目は、とどまるところを知らない原油高騰が引き金になって、ブッシュ政権がエネルギー作物によるバイオエタノールの生産を奨励し、バイオエタノール先進国ブラジルではエネルギー作物の増産を行っていることだ。当事者たちは、その影響は限定的だと主張しているが。

 さて、6月3日、国連食糧農業機関(FAO)が主催してローマで開かれた食料サミットで討議された内容が連日報じられたが、肥料に関する記事が全く見られない。

 資源問題としてレアメタルのことは最近ようやく語られることが多くなった。しかし、世界的に食糧危機が叫ばれているいま、肥料・飼料用のリン鉱石のことが報じられることがほとんどないのは不思議だ。

 食糧生産には欠かせない肥料の3要素(窒素、リン酸、カリ)のうち「生命の根源」とも言われる成分で農作物の品質と深い関係にあり、酪農の飼料としても必要なリン酸の原料資源、しかも代替物がないリン鉱石の価格がスカイロケッティングと表現されるように高騰している。

 世界の肥料価格は2007年に2倍になった。しかし、リン鉱石、リン酸肥料は5月12日に起きた中国における主要産地である四川省大地震の影響もあって、この3カ月でさらに2倍になった。 

 人類が紀元前3000年頃から始めた農業の歴史上不足し続けてきたのがリン酸である。その原料であるリン鉱石の枯渇がいま心配されているのである。その資源事情を見てみよう。

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このコラムについて

資源ウォーズの世界地図

産業を支える資源に対するリスクが高まっている。銅やアルミなどの非鉄金属はもちろん、自動車の触媒に必須なプラチナ、次世代電気自動車に使われるリチウムなどのレアメタルも、“資源メジャー”や新興国の国家戦略とも絡み始めている。これまでカネさえ出せば入手できたさまざまな産業のキーとなる鉱物資源の囲い込みが始まっている。このコラムでは、鉱山技術者として世界の現場を踏破してきた筆者が、これからの資源リスクについて解説する。

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著者プロフィール

谷口 正次(たにぐち まさつぐ)

谷口 正次

資源・環境ジャーナリスト。1960年九州工業大学鉱山工学科卒、小野田セメントに入社。同社資源事業部長などを経て、1994年に秩父小野田常務、1996年専務、1998年に太平洋セメント専務。2001年に屋久島電工社長(太平洋セメント専務取締役兼務)2004年6月国連大学ゼロエミッションフォーラム理事(産業界ネットワーク代表)。主な著書に「メタル・ウォーズ」(東洋経済新報社)、「入門・資源危機―国益と地球益のジレンマ」(新評論)など。

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