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朝鮮の皇后・閔妃殺害事件 日本政府高官の手紙見つかる

2008年6月28日10時45分

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写真晩年の三浦梧楼=1924年撮影

 日清戦争直後の1895年秋、ソウルの王宮に押し入った日本人らによって朝鮮王朝の皇后閔妃(ミンビ)が殺害された事件で、新史料が見つかった。日本政府高官の間で交わされた手紙。日本では駐韓公使三浦梧楼の独断的犯行とされてきたが、三浦の赴任以前に、資金提供などの懐柔策から「強硬策」に転換することで高官の間で合意が形成されていたと示唆する内容だ。歴史をめぐる日韓の大きな溝となってきた事件で、論議を呼びそうだ。

 日清戦争の結果、朝鮮からは中国の影響が一掃された。しかし、ロシアなどの三国干渉になすすべもなかった日本に対し、朝鮮王朝ではロシアを味方につけようという動きが出てきた。閔妃はその代表的存在で、日本は駐韓公使の井上馨が中心となり懐柔しようとしていた。朝鮮に300万円を貸与、さらに300万円贈与する計画もあったことが知られている。日清戦争前の日本の国家予算は8千万円で、かなりの巨額だ。

 手紙は韓国のドキュメンタリー映画監督で閔妃暗殺事件を調べていた鄭秀雄(チョン・スウン)さんが東京の国会図書館憲政資料室で探し出した。事件前に交わされたもので12通。鄭さんの依頼で熊本大の小松裕教授(日本近代史)が読み解いた。

 95年8月2日付で野村靖内相が井上公使に出した手紙は、反閔妃クーデターを企てたとして追放され日本に亡命した朴泳孝(パク・ヨンヒョ)内相に、次期駐韓公使に内定していた三浦梧楼陸軍中将と熊本国権党の代表が「ひそかに会った」様子を伝える。日本からの資金は閔妃にも配分すると朴が伝えたが、「貰らはナイ」「コハイ事」と閔妃に拒否された様子も生々しく記されていた。

 芳川顕正法相が陸奥宗光外相と山県有朋前陸相にあてた手紙は6月20日付。一時帰国した井上公使と会った様子を伝える。「弥縫(びほう)策ハ断然放棄シ決行之方針ヲ採ラル」よう伊藤博文首相を説得してほしいと芳川が井上に依頼。長州出身の井上と伊藤は一緒に英国留学した親しい関係。この方針は芳川、陸奥、山県の3人の「合同の意見」だと芳川が説明すると、井上は了承したと書かれている。

 王宮を襲う実行部隊には陸軍の600人などのほか「壮士」と呼ばれる民間人47人が参加した。うち21人を熊本の関係者が占めていた。その背景が浮かび上がる手紙もある。

 奈良県知事などをつとめる官僚が井上に出したもので8月3日付。熊本勢の多くがかかわっていた熊本国権党に強い影響力を持つ国民協会代表の品川弥二郎が抱えた膨大な借金を、井上が立て替え完済したことを知らせるもの。「熊本国権党のメンバーは近年そろって井上に心服している」との内容だ。

 井上の後任公使として三浦は9月1日に赴任。外出もせずに読経に明け暮れていたという。そして閔妃は10月8日に殺害される。三浦は、国王の父が首謀者で実行犯は日本人を装った朝鮮人だと主張したが、欧米外交団の強い抗議で、日本政府は三浦を解任。さらに関係者を召喚し、広島で裁判にかけたが民間人は三浦を含め全員が証拠不十分で免訴、軍人も無罪となった。一方、現地では朝鮮人3人が死刑になった。

 手紙を読み解いた小松さんは「政府高官の間で『決行の方針』が打ち出され、実行犯として熊本国権党を手なずけるなど準備が進められた。三浦はそうしたことを承知のうえで赴任し実行、独断での犯行を装った。日清戦争に勝ち『文明国』の仲間入りを果たした日本は、この蛮行を隠すしかなかった」と考える。

 漢陽大(ソウル)の崔文衡(チェ・ムンヒョン)名誉教授は「日清戦争に勝ったのに、ロシアが出てきて日本にとっては何のために戦争をしたのか分からない事態になっていた。閔妃の懐柔には失敗したが、三国干渉で敵だったドイツを日本は味方につけることに成功し、懐柔策を続ける必要がなくなった。情勢変化を知らない閔妃が、日本が擁立した内相の朴を解任したことで、対立は決定的になる。そうした経緯を手紙は示す決定的証拠で、三浦の独断ではありえないことが明らかになった」と語った。

 一方、この事件の研究を一昨年まとめた歴史家の秦郁彦さんは「戦前期を通じて内実に触れるのがタブーとされたため、真偽の見極めのつきにくい事件だ」としたうえで、今回の手紙について「日本政府が関与したというには証拠不足。強硬策=王妃の殺害を意味すると見るのは論理の飛躍だ。伊藤を説得する話にしても、穏健派の伊藤がどう反応したのかはわからない。聞き流したことも考えられる。わいろを断ったという点も、だから殺害しなくてはと判断したとは思えない」と話す。(渡辺延志)

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