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【道路を問う】

第3部 怪しい優先順位<下> 開かずのトンネル 買収難航 見切り発車

2008年3月21日

国道459号(右側)と並ぶ当麻トンネルの入り口は閉鎖されたままだ=新潟県阿賀町で

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 福島県との県境、山々に囲まれ、まだ雪が残る新潟県東部の阿賀町。ここで十二年前に着工しながら、いまだに開通しないトンネルがある。国道459号「当麻(たいま)トンネル」(約一・三キロ)だ。

 トンネルから数十メートルの場所に住む渡辺常太郎さん(65)が、あきれ顔で話す。「入り口の方のおれたちの土地を売れ、売れって言って、出口の土地を買ってなかったなんて、全然知らなかった」

 工事を発注した新潟県津川地区振興事務所は着工前、トンネルの起点側の日出谷(ひでや)地区の用地買収を終えていたが、終点側の実川島(さねがわじま)地区では未完了のまま、一九九六年九月から掘り進めた。

 その後、終点側用地の一部買収が相続問題で難航。二〇〇四年五月、貫通まであと二十二メートルとなったところで工事は中断した。国の補助金約二十一億円を含むトンネル工事費三十九億円のうち、既に三十六億円を費やしていた。

 ようやく昨年になって終点側用地を取得。先月から工事を再開した。実に三年九カ月の中断で、機材の撤去費用など約七百万円が余計にかかった。阿部高次同事務所次長は「地元説明会で異論がなかったため、終点側の用地も大丈夫だと考えていた」と釈明する。

 「やっとることがおかしい」と渡辺さん。現在の国道が狭く危険なため、北側にトンネルを含めた二キロ余りの迂回(うかい)国道を造るという計画だが、日出谷の住民には「国道の拡幅で十分。トンネルでなければもっと早く終わった」という声が多いという。

 さらに奇妙なことには、三年前に国土交通省が算出した当麻トンネルの費用対効果(便益)は八十三億円で、うち八十二億円が走行時間短縮便益だった。交通事故減少便益はゼロで、安全性の確保という地元のニーズとは大きくすれ違う。

 終点側の実川島地区の猪俣和〓区長(64)は「地形から拡幅は無理。私たちより阿賀町市街に近い日出谷の人にはトンネルはいらんだろうが、その奥に住むわれわれには100%必要だ」と反発。「工事の遅れは国や県がここを第一優先にしなかったからだ」と話す。

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 こうした「開かずのトンネル」は、当麻トンネルだけではない。

 会計検査院は昨年十一月、約百八十カ所の国道トンネル工事のうち、約四割の六十九カ所(事業費計約千五百億円)で終点側用地を未買収のまま着工し、当麻など四カ所で中断が起きたと指摘。機材の撤去・再設置費用など計一億円が余計にかかったとして国土交通省に改善を通知した。

 検査院の担当者は「トンネルは普通の道路のように、施工済み区間を部分使用することはできないため、中断すると整備効果はゼロのまま。地権者から同意書を取り付けるなど、法的に一定のめどをつけてから着工すべきだ」とする。

 これに対し国交省国道・防災課の担当者は「現場の思い込みや推測を基に進めてしまった」としながらも、「終点側の用地買収完了後の着工では効率が悪い」と話し、今後も“見切り発車”する可能性を否定しなかった。

 道路整備が進み、近年の工事は「山へ山へと進む」といわれる。それにともないトンネル事業費も増えた。出口なきまま掘り進む無計画性は、住民の意思より「工事優先」の裏返しでもある。

 (大村歩と稲垣太郎が担当しました)

<道路の整備便益> 国土交通省は新規道路を採択する際、走行時間と走行費用の縮小、交通事故の減少という3つの便益の合計を、建設・維持管理費で割って費用対効果を分析、一定率を下回らなければ採択する。しかし、前提となる交通需要予測が甘く、計算方法が恣意(しい)的との批判が強まっている。

※〓は郎の旧字体

 

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