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【道路を問う】

第3部 怪しい優先順位<中> 懲りない大橋の夢 海峡連結構想 採算遠く

2008年3月20日

1991年に立てられた紀淡連絡道路実現を求める看板は、ぼろぼろになっていた=兵庫県洲本市で

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 旧日本陸軍の要塞(ようさい)があった和歌山市の加太(かだ)岬。丘の上にある国民休暇村からは、二つの無人島を挟んで淡路島が見える。

 「あそこから見ると近いでしょ。だから淡路島まで橋を架けられそうな気になるんだろうな」と地元の土産物店主(48)。

 加太岬と淡路島・洲本市(兵庫県)を橋で結び、神戸淡路鳴門自動車道と接続する構想がある。地域高規格道路の候補路線、「紀淡連絡道路」だ。完成には、神戸淡路鳴門自動車道の明石海峡大橋(三千九百十一メートル)をしのぐ超・長大橋の建設が必要となる。

 一九九八年の全国総合開発計画(五全総)に、紀淡連絡道路の名前が挙がった。加太の老舗ホテル従業員(56)は「確かにその前後は盛り上がってた。漁業権を高く売るなんて景気のいい話もあった。でも今は皆、忘れてる。夢だよ、夢」。

 対岸の淡路島・洲本市。「地方分権というならそれなりの環境も必要だ」と柳実郎市長(62)は紀淡連絡道路の必要性を訴える。だが、市民からの要望は「非常に低い」と率直に認める。明石海峡大橋についても「宿泊観光客が減り、神戸への買い物客が増えて地元商店街に悪い影響がある。これでよかったのかという思いはある」と複雑な表情だ。

 大阪・兵庫・和歌山・徳島の二十五市町でつくる「紀淡連絡道路実現期成同盟会」事務局の吉増健・和歌山市交通政策課長も「機運はかなり冷めてますわ」と認める。ではなぜ、同盟会は存続しているのか。「まだ国が調査を続けているから、こちらからは…」と言葉をのみ込んだ。

 国土交通省は九四年、紀淡連絡道路や東京湾口道路、伊勢湾口道路など六カ所で、「海峡横断プロジェクト」を地域高規格道路の候補路線と位置付け、延々と調査を続けている。これまでに道路特定財源から投下した調査費は約六十八億円にも上る。

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 中でも、国交省の天下り先の財団法人「海洋架橋・橋梁(きょうりょう)調査会」は、過去六年間で約八億円の調査業務を随意契約で受注してきた。同財団は旧建設省道路局長だった理事長をはじめ、国交省や旧日本道路公団幹部OBが理事や監事に十一人も名を連ねる。収入の大部分は道路財源からの委託事業。常勤の専務理事の給与は約千八百万円とみられる。

 財団の幹部は受注額や職員数など一切を「答えられない」と繰り返し、「わが社はアカデミックな団体。海峡プロジェクトを推進していたわけではない」と語る。

 瀬戸内海に三本の長大橋を建設して三兆八千億円もの借金を抱え、民営化に際して一兆五千億円近い税金が投入された旧本州四国連絡橋公団。一兆四千四百億円の建設費をかけながら、当初見込みの利用者数を大きく割り込んでいる東京湾アクアライン。長大橋道路は採算性からみれば、ことごとく失敗した。

 それでも、今月末に閣議決定される見通しの国土形成計画には「湾口部、海峡部等を連絡するプロジェクトについては、熟度に応じた取り組みを進める」と、抽象的ながら構想を維持しようとする文言がある。過去の失敗を顧みず、税金による巨大プロジェクトに固執する道路官僚の「無謀な夢」は、いまだついえてはいない。

<国土形成計画> 国土整備の長期計画として1962年から5次にわたった全国総合開発計画(全総)に代わってつくられる計画。個別事業名を挙げて国主導で開発を推進してきた全総から転換し、国土形成計画は指針のみを掲げ、具体的な計画は全国を8ブロックに分けた広域地方計画で決める。

 

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第3部 怪しい優先順位

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