海軍侍従武官手記
昭和天皇の生活描く
【道路を問う】第3部 怪しい優先順位<上> 後回し『孤立』の村 まず大動脈ツケは地域に2008年3月18日
長野県大鹿村。南アルプスの山々を頂き、「日本のチベット」と呼ぶ人もいる。現在は地蔵峠で冬季通行止めの国道152号は、峠近くになると車一台がぎりぎり通れる幅で、生活道路とはとても呼べない。 病院や買い物施設などがある松川町と結ぶ県道が、人口千三百人足らずの村の「生命線」だが、この県道も落石で死者が出るほど険しい。 村には温泉や地歌舞伎などの観光資源があるが、「観光客が県道を怖がって、村に入って来にくい」と中川豊村長(72)は嘆く。国道は北の峠も冬季閉鎖となる。村に病院はなく、病人が出れば県道を四十分ほど走らなければならない。「もし地震などで県道が寸断されれば、村は孤立する」 最盛期に五千人を超えた人口は、道の悪さが原因で流出が止まらず四分の一に。「村がつぶれちゃうよね」と、国道沿いに住む大島孝子さん(66)は言う。十五年前、夫の喜作さん(75)の定年を機に、田舎暮らしを求めて名古屋市から移住。当時は「国道が広くなる」「観光道路になる」という話をあちこちで聞いたが、実現していない。「村を持続するためには、地蔵峠にトンネルを通し、一年中国道を通れるようにしないと」。それが村長の悲願だ。 大鹿村の国道の改修は県が計画を立て、国が費用の半分を出す。中川村長は昨年も、県の飯田建設事務所や土木部に何度も足を運び、国道工事を陳情した。だが、「『三遠南信自動車道で精いっぱいで、大鹿村の国道改修まで予算が回らない』と言われた」と振り返る。 空から地蔵峠を越えてみた。国道が途切れた先に、三遠南信自動車道の矢筈(やはず)トンネル(約四キロ)の出入り口が見える。 「三遠南信」とは三河(愛知県)と遠州(静岡県)、南信州(長野県)で、国は延長千キロの道を高規格幹線道路や国道で結ぶ直轄事業を進める。長野県内では最初にトンネルなど約六キロを約二百八十億円で建設。さらにトンネルと中央自動車道とを結ぶ工事にも着手、既に約六百七十億円を費やした。国は今後約千四百億円の追加投入も計画しており、そうなると総額の三分の一の約七百八十億円が県負担となる計算だ。 国はさらに三遠南信道の周辺道路の有効利用も打ち出したため、県はトンネルより南側の国道改良工事に「集中投資している状況」(土木部)。大鹿村の願いは大きく遠のいた。 県は大鹿村の国道拡幅工事を二〇〇五年度に終えて以後、新たな予算付けを見合わせている。飯田建設事務所は「限られた予算の中で順位をつけないと」と言う。だが、計画や補助金で強大な権限を持つ国の直轄事業に振り回されている。 「決定は国、後で請求書だけがドンと来る」 宮城県知事を三期十二年間務めた経験からそう話すのは、浅野史郎慶大教授。「優先順位を誰がどうやって判断するのかが重要で、今はベストな選択になっていない。順位は地域で決めるべきだ」 ◇ 道路建設で最も重要となる「優先順位」。だが計画決定の過程は、納税者や有権者には極めて見えにくい。生活道路の整備が進まない地域に、突如現れる巨額の道路建設プロジェクト。官僚や行政への不信がうずまく道路をたどってみた。 <高規格幹線道路> 車が高速で走れる構造で造る自動車専用道路。高速道路と一般国道に大別される。道路法は建設費の国負担率を3分の2と定めているが、国は関連法で2003年度から5年間の措置として、10分の7に引き上げており、今国会で向こう10年間延長する改正を目指す。改正法が成立すれば、同時に地方道路整備臨時交付金の対象に都道府県管理の国道が追加され、国の負担率も最大10分の7に引き上げられる。
記事一覧【連載】第4部 「一般化」の裏で
私ならこうする
第3部 怪しい優先順位
第2部 浪費の現場第1部 特定財源の現場
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