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【道路を問う】

第1部 特定財源の現場<中> 村の“生命線”置き去り 『高速より生活道を』

2008年1月25日

山あいを曲がりくねって続く国道168号。随所で見通しが悪く、車の対向もままならない=昨年12月、奈良県十津川村で

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 「もう着くよ、お父さん、もうすぐやで!」

 闇夜の山道を突っ走る救急車。中みはるさん(54)は意識を失った夫に向かい、“うそ”と分かりきった呼び掛けを夜通し繰り返した。

 「日本一広い村」として知られる奈良県十津川村。役場の情報管理室長中拓也さん(49)が脳内出血で突然倒れたのは二年前、村内の実家にいた午後八時ごろだった。曲がりくねった国道と林道を抜け、救急車が実家に到着したのは約一時間後。だが、村の診療所では手に負えなかった。

 受け入れが決まった病院は北へ約八十キロ。救急車は紀伊半島を縦断する国道168号を再び走り始めたが、道は山ひだの急斜面にへばり付いて蛇行し、随所で対向車と擦れ違いできない狭さ。その上、路面は凍結して速度が出なかった。

 診療所を出発して約三時間。やっと到着した病院でみはるさんがへたり込むと、時計の針は午前三時前を指していた。昨年、村の救急搬送は病院収容まで平均約一時間五十分。設備が整った村外の病院に通じる道は、まさに村民の生命線だ。

 168号は十三年前、蛇行区間にバイパスを造るなどして、二車線に整備する地域高規格道路(奈良県五條市−和歌山県新宮市、約百三十キロ)に指定され、国と県が工事に着手した。だが、完了したのは約八キロしかない。

 拓也さんは幸い、職場復帰までに回復した。「つくづく命の道やな、と思った。今のままでは助かる村民も助からない」

 昨年六月、長女を出産した女性(31)は深夜に破水し、夫の運転で和歌山県の病院まで一時間半近く走った。おなかの子を案じながら、車内での出産が頭をよぎった。

 「この子も同じ日本に生まれた。人口が少ないから、必要ない道路と思われているのかしら」と涙を浮かべて話した。

 旅館を経営する田花敏郎さん(55)は「車が走っていない高速道路より、生活に密着した道路を整備する方が先でしょう。順番が逆」と憤る。

 人口約四千四百人の村には門前まで車道のない民家が点在する。大雨のたびに土砂崩れが起き、道の維持費もかさむ。村の道路関連予算は年約十億円。道路特定財源の暫定税率が廃止なら約一億四千万円の減収となる。

 穴埋めには高齢者の足である村営バス費や森林維持費を回さざるを得ない。「国道が立派になれば、若者が村外に通勤できる」という過疎化の打開策も絶望的になる。

 「今まで道路整備は都会に譲り、やっとおれらの番やと思ってた。税率廃止なら村は死ぬ。もう一揆でも起こすしかない」。更谷慈禧(よしき)村長(60)は声を震わせた。

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   ◇  ◇

 「都会と地方、まるで二つの国があるようだ」。道路整備の遅れを懸念する地方の首長からは、怨嗟(えんさ)に似た声が渦巻く。昨年十一月、東京・日比谷公会堂に全国の自治体関係者ら約二千七百人が集結した。宮崎県の東国原英夫知事は「地方が道路を造ってほしいというのは魂の叫びだ」とまくし立てた。

 過熱する首長らに元鳥取県知事の片山善博・慶応大大学院教授(地方自治論)は「砂利道時代と同じ議論をしている。道路は重要だが、もはや何事にも優先する聖域ではない」とくぎを刺す。

 「道路を造りすぎて財政が疲弊した自治体もある。真に必要なのは医者か、バスか、道路か。特定財源の枠を取り払い、何を優先するか、地方が決められるように変えるべきだ」

<道路特定財源> 道路整備を進めるため創設され、拡充されてきた。2008年度予算ベースで約5兆4千億円。うち地方分は約2兆1千億円。代表格は揮発油税で1リットルあたり48・6円。暫定税率により2倍に引き上げられている。このほか軽油引取税、自動車重量税などで、暫定税率が廃止されれば、国と地方で約2兆6千億円減少する。

 

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第3部 怪しい優先順位

第2部 浪費の現場

第1部 特定財源の現場

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