海軍侍従武官手記
昭和天皇の生活描く
【道路を問う】第1部 特定財源の現場<上> 走りだした不採算路線 3兆円、新直轄方式に2008年1月24日
料金ゼロで走り放題。夢のような高速道路が山すそを北へ北へと延びてゆく。だが、しばらく走ると、看板が現れた。 「岩城から先、有料道路」。秋田県を縦断する「日本海沿岸東北自動車道」。由利本荘市にある岩城インターチェンジから先は、旧日本道路公団が民営化した高速道路会社が料金を徴収する。料金所を越えると交通量は急に少なくなった。 その手前の本荘−岩城(二一・六キロ)間は昨年九月に開通した。公団民営化で導入された新直轄方式の第一号。料金収入では建設費や管理費を賄えない高速道路を、民営化会社の代わりに国が建設する制度だ。 空き店舗が目立つ地元の羽後本荘駅前商店街。商店主(76)は「高速道路のおかげで市内に工場が進出する。若い人が増えるのでは」と期待する。タクシーの運転手(55)は「空港へ向かう客が珍しがって使うぐらい。メリットは感じないけど、料金はタダだし、ないよりはあった方がいいな」。 平均交通量は一日約九千台(上下線合計)。多くは並行する国道からの乗り換えとみられ、国土交通省は「通勤時間帯の国道交差点の通過が十三分から一分になった」と胸を張る。 ただし、建設には約七百六十億円かかった。うち75%は道路特定財源。残りは国からの交付金や秋田県が負担した。同じような不採算路線は全国で三十四区間、計約八百キロ。今後、続々と開通する。主に特定財源から約三兆円が注がれる。 ◇ ◇ 「新直轄をやってくれないなら、道路以外でも全部反対しますよ」 「そんなおっかないこと言うなよ」 二〇〇二年秋、東京都内のあるレストラン。自民党道路族のドンだった村岡兼造元官房長官は、小泉純一郎首相(当時)に迫った。道路公団民営化議論の真っただ中。新直轄を導入しないなら予算案まで反対するという“脅し”だった。 村岡氏は高速道路建設推進議員連盟の会長。一九九九年に決まった九千三百四十二キロの高速道路整備計画のうち、未開通の約二千キロの計画見直しが議論されていた。新直轄はそれをすべて建設する道路族と国交省の“秘策”だ。 国交省の有力OBは「けん引したのは道路調査会長だった古賀さん(誠・自民党選対委員長)。村岡さんも賛成した」と打ち明ける。山崎拓元幹事長も同席した場で、村岡氏の直談判は約二時間に及んだ。小泉首相は苦笑いしながら「分かった」と応じたという。 五年後、新直轄の第一号として開通した本荘−岩城間は村岡氏の地元。親族が経営する地元有数の建設会社は、工事の一部を請け負った。 村岡氏は「地域の活性化は社会資本整備がなければ絶対あり得ない」と言う。揮発油税などの暫定税率の廃止には「反対だ。ますます地方格差が起きてくる」。 昨年十一月、自民党本部。新直轄区間の開通を待つ徳島、大分など十三県の知事らが二階俊博総務会長を訪れ、税率維持の緊急提言を手渡した。 「先般の参院選は高速道路のできていないところで負けた」。二階氏は総選挙をにらみながら建設を“約束”した。 「小泉さんは『自民党をぶっ壊す』と言ったが、できなかった」。公共事業に詳しい五十嵐敬喜・法政大教授はそう指摘する。「高速道路をすべて造らなければならない理由は何か。各路線を再度、丁寧に検証すべき時期だ」と言う。 道路特定財源の暫定税率をめぐり、与野党が激しく対立する。三月末の期限切れまでに議論は尽くされるのか。利権や選挙が密接に絡む道路建設と巨額財源。そのあるべき姿を考える。
記事一覧【連載】第4部 「一般化」の裏で
私ならこうする
第3部 怪しい優先順位
第2部 浪費の現場第1部 特定財源の現場
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