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【道路を問う】

第2部 浪費の現場<下> 派遣酷使の裏で私益

2008年3月5日

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 「民間の派遣職員が役所からの天下りを養っているようなもの。奴隷のような扱いがばからしくなってやめたんだ」

 工事監督の資格を持つ三十代の男性は、名古屋市に本部がある社団法人「中部建設協会」での仕事について、怒りを込めて振り返った。

 協会は一九六六年の発足以来、地元の国土交通省中部地方整備局から道路パトロールや工事予定価格の積算などを独占的に受注してきた。二〇〇六年度は約百七億円。うち約七割は道路特定財源を原資とする特別会計から支出された。

 協会は愛知、三重、岐阜など、中部管内に支所を持つ。男性は勤めていた建設コンサルタント会社の指示で、ある支所に派遣され、予定価格の積算に従事した。

 積算チームは派遣職員が約十人で、正規の職員は中堅幹部が一人だけだった。「幹部は仕事が多すぎて把握できず、自分たちが毎日、国道事務所に通って仕事をした。深夜まで残業するのも派遣ばかり。正規職員は皆、七時か八時に帰った」と男性は振り返る。

 派遣職員の一人が仕事のやり方に異を唱えたところ、幹部は「派遣はいくらでも代わりがいる。不満を言うなら、いなくなってもらう」と高圧的だったという。だが、協会は派遣職員抜きでは到底成り立たない。現在は三十八社から約四百人を受け入れている。

 正規職員は派遣よりやや多く四百九十人。そのうち約百人は中部地方整備局を中心とした国交省OB。年収千数百万円という四人の常勤理事も全員、同省出身者だ。

 男性の年収は約四百万円。「同じ仕事をして二百万円台の人もいた。派遣元の会社によってピンハネ額が違っていたからだ」と証言する。

 協会は「業務量が多く、手が回らない部分は派遣職員に手伝ってもらっているが、主体は正規職員。契約職員の雇用も進めている」と言う。

 処理能力を超えた仕事を請け負い、労働不足は民間からの出向者や派遣職員で埋め合わせる−そんな「偽装請負」まがいのやり口は二年前、全国に八つある建設弘済会や建設協会で表面化した。さらに中央にも似たような天下り法人があった。

 全国の道路に関するデータベースの運営を独占受注する財団法人「道路保全技術センター」(東京都港区)。民間の建設コンサルタント会社から六十人の出向者を受け入れている。出向職員は職員全体の25%を占め、所属企業からの給与とは別に、同センターから「協力金」が支給される。

 出向を隠れみのにした事実上の請負労働なら職業安定法に違反する可能性も出てくるが、同センターは「補助的に働いてもらっているだけで、受け入れの目的は、あくまで出向者の技術向上」と違法性を否定した。

 民間でできる仕事を天下り法人が独占受注し続ける限り、価格競争は生まれない。無駄に流れる巨額の道路財源は、公益ではなく、官僚OBらの“私益”へとつながる。

 旧建設省OBの長谷川徳之輔・明海大教授は古巣を厳しく批判する。

 「事業の外部委託が効率化という本来の趣旨から離れ、仲間内で利権を分配する機能になり代わっている」

 (社会部・今村実、鬼木洋一が担当しました)

 偽装出向問題 各地の建設弘済会や建設協会が、民間からの出向者に国からの請負業務をさせていた問題。厚生労働省は2006年、事実上の偽装出向に当たるとして是正を指導した。各団体は出向を解消、直接雇用や派遣労働者に切り替えた。職業安定法は原則として労働者供給事業を禁じており、出向は技術指導や人事交流などしか認めていない。

 

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第3部 怪しい優先順位

第2部 浪費の現場

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