ここから本文エリア 「開門 一日も早く」2008年06月28日
■諫早干拓訴訟■ ▼原告ら県などに要請 諫早湾干拓事業(諫早市)をめぐる訴訟で27日、佐賀地裁が国に潮受け堤防の排水門を常時開門するよう命じた判決を受けて、漁民らは「一刻の猶予も許されない」と早期開門を県などに申し入れた。一方、県は「予期せぬ判決」と戸惑い、干拓地での農業への影響を懸念する営農者への緊急説明会を開くなど、対応に追われた。 佐賀訴訟の原告や支援者ら約30人は同日午後、県庁を訪れた。早期開門を県と県議会、県漁業協同組合連合会に申し入れた。 原告で島原漁協組合員の中田猶喜さん(58)は、県諫早湾干拓室の橋本祥仁室長に対し、「漁業被害は一刻の猶予も許さない状況になっている。判決が猶予期間とした3年を待たず、一日も早く開門してほしい」と訴えた。 また、漁業不振で漁にほとんど出られない状況を挙げ、「今からでも遅くない。有明海再生のための政策を実行してほしい。県も漁民も海を取り戻すため、一緒に頑張っていければと思う」と話した。 弁護団の縄田浩孝弁護士は「有明海は県にとっても大切な財産なのだから、守ってほしい」と話した。 干拓をめぐっては、国に漁業被害の損害賠償や排水門開門などを求める訴訟が長崎地裁で係争中だ。原告団長で小長井町漁協(諫早市)の理事、松永秀則さん(54)は「開門が認められ、うれしい。海環境を取り戻す第一歩になる。堤防閉め切りが漁に与えた直接被害を訴えている長崎地裁訴訟への弾みになる」と話した。 同漁協では、漁業不振で赤字額が約1千万円増えるなど漁協の経営も漁師個人の生活も苦しくなっているという。「国はやるならちゃんとした公共事業をしてほしいし、ここは開門に向けてしっかりした政治判断をすべきだ」と語った。 ▲「不安材料に」 営農者ため息 「収穫を終えつつあるバレイショを見てほっとしていた時期に、まさか」「営農者が団結して乗り切ろう」――。県が諫早市で開いた緊急説明会では、「潮受け堤防の排水門開門」が突然視野に入ってきたことを不安視する営農者と県幹部のやりとりが1時間近く続いた。 県が作成した「判決の要旨」を元に、県幹部が説明に立った。「判決では開門を5年としているが、元の淡水の生態系に戻すにはさらに2年必要で、県の解釈では7年かかることになる」と述べた。 営農者が内部堤防の強度を尋ねると、県担当者は「強度は大丈夫だろうが、塩害が出るおそれがあるので、何らかの補強が必要になるだろう。でも、補強費用やにごり対策、塩害の補償は誰がするのでしょうか」と、営農者に逆に投げかける場面もあった。 会合後、市内の農業生産法人代表(65)は「私たちのだれもが大きな投資と借金をして備えてきた。この判決は大きな不安材料が増えたのは間違いない」と、ため息交じりに話した。 +県境悪化との因果関係/知事、改めて否定 金子原二郎知事は報道陣の取材に「判決は予期していなかった」と話した。その上で、潮受け堤防の閉め切りが湾内の環境悪化につながったと判決が認めた点について、「県も含め、国は漁業への影響はないということでやってきた。私もそう思う」と、改めて因果関係を否定した。 湾内では堤防閉め切り直後の93年から、高級二枚貝のタイラギが全滅し、アサリも不漁となった。だが、金子知事はノリの漁獲高に触れ、「魚とノリは違うけれど、ノリの不作は1年だけで、それ以降は順調に取れている」などと述べた。 干拓地の地元、諫早市の吉次邦夫市長は判決について「防災機能や営農に影響が大きいと考えられる。今後の対応について国や県と協議したい」とのコメントを出した。 一方、佐賀県は裁判とは別に、中長期開門調査を求めてきた。古川康知事は「国にとっては厳しい判決だが、有明海を元に戻して欲しいという思いは、原告も裁判所も県も共通。漁民の思いが裁判所に届いた判決だと思う」と評価した。今後も開門調査など有明海の環境変化の原因究明を国に求めていく方針を示し、「原因を明らかにすることが、最終的には営農を進める長崎県にもプラスになるはずだ」と話した。 マイタウン長崎
|