最初からボタンを掛け違えては困る。さきの通常国会で成立した国家公務員制度改革基本法に基づく制度設計に、早くも霧がたちこめ始めた。作業にあたる政府の制度改革推進本部の事務局人事について福田康夫首相が民間からの公募採用論を却下するなど、改革に慎重な官僚に配慮した体制を組む姿勢をにじませているためだ。
縦割り行政の打破に向け成立した基本法だが、実際は内閣人事局の新設などの大枠と、5年以内の完全移行に向けたプログラムを示したにとどまる。具体的な制度作りは本部事務局に委ねられる部分が大きく、骨抜きを許さぬ布陣が肝心だ。事務局長には民間人を起用する方向だが、首相の取り組みはこころもとない。与野党も政府の作業を厳しく監視すべきである。
同法の推進役である渡辺喜美行政改革担当相は本部事務局長や次長らを公募で幅広い人材から登用し、スタッフの半数以上を民間人とするよう主張してきた。スタッフが各省の送り込んだ官僚で占められ、「お手盛り」の制度設計を進めることを警戒したためだ。
事実、与党と民主党の合意で成立した基本法は、本部事務局による作業次第で新制度の性格を一変しかねない危うさをはらむ。
たとえば、内閣人事局を新設し、官房長官に幹部人事の候補者名簿を作成する権限を与えたことは、いわば同法の「心臓」だ。政府案は当初、幹部人事の原案はあくまで各府省が作成する内容だったが、民主党の主張を取り入れ修正した。
しかし、この「候補者名簿」について政府内には「文字通り候補者一覧のようなもの」として、役職につく可能性のある人材を羅列したリストに過ぎないとの解釈がある。仮にそうであれば幹部人事の実権は依然各省が握り、内閣への一元化は有名無実化しかねない。新設される内閣人事局についても局長に政務を担当する官房副長官など政治家を起用し政治主導を強めるか、官僚をあてるかをめぐり論争が起きている。
法律が成立したとたんに早くも骨抜きの足音が聞こえ始めている有り様だ。ところが、首相は渡辺氏の公募提案を受け入れなかった。渡辺氏主導で急進的な制度設計が進むことを警戒したのではないか。ことさらに官僚を敵視する運営はむろん好ましくないが、各省と一線を画し専門知識で支えるスタッフなしで官僚からの独立は保てまい。本部事務局は7月上旬に発足する。「はじめの一歩」に細心の注意をしてほしい。
与野党にも注文がある。基本法成立を後押しした勢力には「脱官僚」を旗印に超党派的な広がりがある。政府に作業を任せず監視の枠組みを作ることも検討すべきではないか。閉塞(へいそく)した統治構造に風穴を開ける千載一遇の好機だ。みすみす逃してはならない。
毎日新聞 2008年6月28日 東京朝刊