9.前回までに言いたいことはほとんど言い尽くしてしまったので、今回は余興のようなものです。

個人情報保護法で適用除外の特権を与えられているにもかかわらず、マスコミはまだ不満らしい。

個人情報保護「制度の見直し急務」…新聞協会が意見書町会名簿作成困難で助け合い崩壊も…個人情報保護(読売)
個人情報保護法見直し求める意見書、新聞協会(朝日)
個人情報保護法:見直し求め意見書提出 日本新聞協会(毎日)
新聞協会の人権・個人情報問題検討会幹事の五阿弥宏安・読売新聞東京本社社会部長「メディアにとって都合が悪いというだけでなく、社会全体が不健全な方向にいきつつあるのではないか」

同副幹事の石井勤・朝日新聞東京本社編集局長補佐「この法律が何を目指し、具体的に何を守るのか、生活者のレベルに伝わっていないことが混乱を引き起こしている」

同前幹事の藤原健・毎日新聞東京本社編集局総務「この法律は他人のことに関心を示さないという匿名社会化を結果的に推進してしまっている」

同じことしか言わないのに、新聞業界だけ3人も発言させるのは時間の無駄です。災害弱者などの問題と、マスコミの取材がしにくいという問題は分けて考えるべきでしょう。

10.取材についていえば「他人を批判するならまず、お前らの新聞社首脳への取材を一切規制するな!」と言いたいですね。
奇しくも意見陳述した3社のトップが法律制定後、揃って自分たちについての取材・報道を制限する言動をとっています。

(1)斎藤明・毎日新聞社長監禁事件
斎藤明04/03/03 毎日

左写真は04/02/28 朝日より。

事件を起訴まで1ヶ月間公表しなかったことについて、斎藤は手記「被害者として思うこと」(04/03/03 毎日)でこんな言い訳をしています。
事件の再発を避け、できうるなら私と私の家族の人権は守らせていただきたいと考え、捜査がおおむね決着した起訴時を公表時期とさせていただいた次第です。

今回、初めて犯罪の被害者となり、被書者の立場のつらさ、人構の重さを、文字通り身にしみて感じております。現在、弊社にはこの事件に関してさまざまな取材申し込みが来ております。中には、あえて申しましょう、一部の週刊誌は、興味本位に私の人権や名誉を顧みない内容の問い合わせをしてきています。それがそのまま罷事として公表されるかどうかはわかりませんが、同じ報道に携わる者として悲しい限りです。

ここで「報道の自由」について論議するつもりはありません。しかし、「報道の自由」を振りかざすことによって、今回のよもな事件が起きた時、被害が警察への届け出をちゅうちょしたり、いわゆる「報道被害」を受け、結果として犯人の狙いを補完してしようことがあり得るのです。

甘ったれるな! 一般の犯罪被害者に対して、そんな配慮など全然したことないくせに。

文中の「一部の週刊誌」とは週刊新潮のことでしょう。
裁判所も認めた「毎日社長監禁の背景に社内抗争」(1)同(2)同(3)同(4)
この記事をめぐり毎日新聞社と斎藤は新潮社を提訴しましたが、今年1月に毎日側敗訴の判決が出ました。

(2)渡辺恒雄・読売新聞会長「ガウン姿撮影」事件
渡辺恒雄

こちらも渡辺が文藝春秋と編集者を訴えました。
プライバシー訴訟:ガウン姿を路上から撮影 渡辺恒雄氏「パパラッチ」/文春「必要」(05/05/30 毎日)
 文春側は尋問で、渡辺会長が巨人軍のオーナーを辞任した際、記者会見をしなかった理由について再三質問。〔中略〕文春側代理人が「会見をすれば、あなたを取材したい人が詰めかけたのでは」と質問すると、「詰めかけたでしょうね。だが、失言を引き出そうとする文春のような記者と対応する気はない。大手の新聞社ならば応じる」と自論を展開した。
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 文芸春秋に対しては「駆け出し時代から文章を書かせてもらっており、係争中にもかかわらず、『文芸春秋』や『諸君!』からは原稿の注文もくる。出版社自体には敬意を表している。週刊文春というのは、かつての関東軍のごとく文芸春秋の中で異質な存在ではないかと思う」と語った。
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 法廷で文春側は、脳こうそくで倒れ、東京・目白台の自宅で療養中だった田中角栄元首相(故人)の車いす姿を86年1月に上空からヘリコプターで撮影し、日本新聞協会賞を受賞した毎日新聞の記事を示し、渡辺会長の見解をただした。〔中略〕
 渡辺会長は、この写真が協会賞を受賞したことについて「知りません」と答えたうえで、「受賞は間違いだったと思う。当時、私は審査をする責任ある立場ではなかった。新聞協会賞というものは、最初から終わりまで立派なものだったとは思わない」と述べた。

かつて竹島一彦氏を「新関東軍」と叩いた週刊誌が、ナベツネに「関東軍」呼ばわりされるのも因果な話ですね(笑)

思わぬ流れ弾が飛んできた毎日新聞の見解はどうなのでしょうか。素人のチラシの裏じゃないんですから、何らかの反論はあってしかるべきでしょう。何も反論しないということは、新聞協会賞=毎日の「防衛庁リスト」「自衛官募集に住基情報」も含まれる=には間違いがあることを認めるんですね?

結局この訴訟は昨年10月、文春側に200万円の賠償を命じる判決が下りました。
渡辺恒雄氏のガウン姿撮影は違法 文春側に賠償命じる(05/10/27 朝日)

(3)秋山耿太郎・朝日新聞社長長男薬物事件
秋山耿太郎写真は3月28日の毎日から。

社長進退と関係ない 事件知った時期答えず(3/28 共同)
 薬物事件で秋山耿太郎社長(61)の長男が起訴された朝日新聞社広報部は28日、共同通信の取材に対し、秋山社長が事件を知った時期などについて「家族のプライベートな問題にかかわる」などとして回答しなかった。一方で「この件は社長の進退と関係ありません」との見解を示した。
 広報部の回答は文書で、事件を知った時期のほか、秋山社長が会社に相談したかどうかなどについても答えなかった。
 事件が進退に影響しない理由について「長男とはいえ、35歳の独立した人格の社会人が起こした事件であることを理解してほしい」と述べている。

結局3人とも事件に関して記者会見を一切開かずに逃げて、他社もそれ以上追及しない。だんだん他のマスコミの取材も後退している印象です。

11.「公人にプライバシーなし」という言説が横行する一方で、政治家や官僚以上に社会的影響力のある、新聞社のトップのプライバシーばかり保護される事件が続いていることに極めて納得いかないですね。こんな連中の「匿名社会」批判など無視して構わないと考えます。

そもそも公人(Wikipedia)の定義が曖昧です。犯罪被害者は違いますよね?
現状では「ニュースとしてカネになるか、マスコミにとって目障りな存在は公人として好き放題取材・報道させろ、でもマスコミの幹部は保護したいから公人から外せ」と言っているようにしかみえません。
言論格差社会戯れにこんな図を描いてみる。

個人情報保護法制定時、「官に甘く民に厳しい」「政治家・官僚保護法だ」という批判が散々ありました。
しかし、成立した法律は報道・著述・宗教目的等を全面的に適用除外とするものです(これが国際的にも異常な制度であることをマスコミは伝えませんが、以前このブログで書いたとおり)

つまり、「民に厳しく官に甘いが、マスコミや作家らにはもっと甘い」ということですよね?
もちろん「主体」ではなく「目的」で判断されるわけですが、宗教法人が主体なら何をやっても宗教目的で非課税となるような現実があるわけで(ちょっと無理があるか)。

変なたとえかもしれませんけど、これからサッカーの試合をしようというときに一人の選手が「自分は特別な存在だからイエローカード・レッドカードの適用除外にしろ」と言い出したら、まともな試合になると思いますか? 敵チームは勿論、味方にそんな奴がいたって滅茶苦茶になるでしょう。
マスコミの要求する特権は、私にはそれと同じような傲慢なものとしか思えません。