◎いしかわ景観条例 無電柱化の加速がカギ握る
石川県全域の景観形成の指針となる「いしかわ景観総合条例」が成立した。来年一月の
施行に向け、公共事業景観形成のためのガイドライン策定作業が始まるが、歴史的市街地で、景観を壊す最たるものは電柱、電線である。世界遺産暫定リスト入りをにらみながら、屋外広告物の規制と無電柱化の加速を車の両輪として、ふるさとの景観向上に努めてほしい。
いしかわ景観総合条例には、白山や七尾湾などの眺望景観の保全を目的に、景観法では
規定していない高さ規制が盛り込まれている。変更命令や罰則もあり、全国でも先進的な条例といえる。こうした独自の景観形成手法は、全国的な注目を集めるのではないか。
ただ、市街地の景観に関しては「奇手」は通用しない。今年二月、石川県主催の国際景
観シンポジウムでフランス人のパネリストは、クモの巣のように張り巡らされた電線、無粋なコンクリートの電柱が都市空間を台無しにしていると指摘した。日本人には見慣れた光景であっても、欧米人には異様に見えるのだろう。
特に戦災に遭っていない石川県では、旧市街地などの道路が狭いために、みにくさが一
層際立つように思える。電線や電柱をそのままにして、歴史的景観の保全や近代的都市景観の創出は、不可能に等しいということを再認識しておきたい。
無電柱化は現在、金沢市増泉、武蔵両地区、加賀市山中温泉などで工事が行われている
。谷本正憲知事は景観総合条例の制定にあたり無電柱化を積極的に進めると答弁し、山出保金沢市長も片町・香林坊を重点ゾーンにして、中心部一帯を面的に整備する意向を示している。
それでも二〇〇六年度末までの市街地幹線道路の無電柱化率は、全国平均の11・8%
に対し、石川県は9・1%にとどまっている。行政負担が一メートルにつき八十―百万円といわれる工事費の高さが大きな障害になっている。金沢城土蔵・鶴丸倉庫の重要文化財指定や主計町の国の重要伝統的建造物群保存地区選定などといった文化財の面的な広がりに遅れぬよう、整備を急いでいきたい。
◎消費者物価急上昇 個人消費の動きに暗雲
五月の全国消費者物価指数が前年同月比でプラス1・5%と大幅に上昇し、伸び悩む個
人消費に暗雲が垂れ込めている。原油をはじめとする原材料価格の高騰で企業収益は悪化しており、国内の景気は頼みとした個人消費に点火することなく、後退の瀬戸際に立たされている。
企業の景況感の悪化と消費者物価指数の急上昇によって、経済活動の停滞と物価上昇が
同時に起きる「スタグフレーション」の心配も一段と強まっており、政府は警戒を怠ってはならない。
一九七〇年代の石油危機の時にみられたスタグフレーションの再発を懸念する声は世界
的にくすぶっており、七月の北海道洞爺湖サミットではまず、世界的な不況回避の強い決意とメッセージを伝えることが大事である。
日銀によると、今回の物価上昇の最大の特徴は「日常的に購入する回数が多い生活必需
品の上昇が目立つ」ことだ。原油高騰の影響はガソリンだけでなく、食料品などにも価格転嫁され、家計に直接波及しているのである。世界的なインフレの進行に対応して、サウジアラビアなどの産油国が増産の方針を表明したが、すぐに大幅な増産が可能なわけではなく、価格沈静化の効果は限定的との見方が支配的である。
原油価格の高止まりは、さらなる値上げの動きを呼んでいる。東京電力は電力料金算定
のベースとなる基準燃料価格の引き上げを決め、来年一月に料金を値上げする方針という。また、自動車用鋼板の価格引き上げが既に決まっていることから、トヨタは国内車の価格アップの検討に着手した。それぞれの業界のトップ企業が値上げに動けば他社の追随が予想され、そうなれば消費者心理はますます冷え込むことになる。
輸出が好調なうちに個人消費を伸ばして内需を拡大し、経済の安定成長を図るという政
府のシナリオは跡形もない状況である。与野党からさまざまな内需拡大策が提案されているが、現在の経済情勢は、景気の後退を食い止め、内需を振興する具体的な政策の提示を政府に迫っている。