認知症の老母と昔話をしていると、人間の大切なものが見えて来る、と言えば少々おこがましいが、本紙「丈夫がいいね」を読んで、人は似たものだと思う ナツメロを歌って元気になったり、軽い奉仕作業でしっかりするお年寄り患者がいるという。社会に役立っていることを自覚して、人は人になる。人間は生きて来たようにしか死ねないとの言葉が浮かぶのである 先日、金沢で開かれた「企業市民の集い」で紹介された、地獄行きの黒いパスポートと光の国へ行く白いパスポートの話も印象深かった。中間の灰色のパスポートであっても、奉仕活動に努力をすれば白になるというのが救われる 仏教に似た話がある。三途(さんず)の川を渡る前に、亡者は白い着物を脱がされる。衣は木に掛けられ枝の垂れ具合でそれぞれの行き先が決まる。人の生きて来た重みを計る冷徹な「天秤(てんびん)」があることをこれら逸話は伝えている が、年をとると「いつまでも昔の歌を歌うな」と一喝されることもある。古い自慢話ばかりするのは「自分のことばっかり」の典型で認知症の前兆だろう。軌道修正するなら今のうちだ。
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