2007年9月16日 持田直武
ブッシュ大統領が米朝関係正常化に動いている。同大統領は、北朝鮮が核計画を完全放棄すれば、平和協定を結び、朝鮮半島に恒久的平和体制を構築すると表明。韓国の盧武鉉大統領が10月の南北首脳会談で金正日総書記にこの提案を伝達する。実現すれば、北東アジアの転機となる。
・金正日総書記に平和協定調印を提案
ブッシュ大統領と盧武鉉大統領は7日、シドニーで首脳会談を開催、北朝鮮が核計画を完全放棄したあとの対応について協議した。同会談は、両大統領がシドニーで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に出席した際に行った。会談のあとの記者会見で、両大統領は北朝鮮が核開発計画を完全に放棄することを前提に、次のような2つの安全保障措置を検討したことを明らかにした。
1)朝鮮戦争を正式に終結する平和協定を結び、現在の休戦協定に代わる恒久的平和体制を構築すること。
2)6カ国協議を基にして北東アジアの安全保障維持機構を組織すること。
韓国大統領府の白鐘天安全保障室長が明らかにしたところによれば、ブッシュ大統領はこの首脳会談で、「我々の目的は先ず6カ国協議の合意を履行すること。そして、朝鮮戦争を正式に終結させるため、金正日総書記と平和協定に署名することだ」と強調。盧武鉉大統領に対して、10月に開催する金正日総書記との南北首脳会談で「このメッセージを同総書記に伝えるよう」要請し、盧武鉉大統領も同意した。
6ヶ国協議の米代表、ヒル国務次官補の説明によれば、上記の2つの安全保障措置は05年9月の6カ国協議の共同声明をベースにしている。1)の朝鮮戦争を正式に終結する平和協定は、同戦争の関係国である南北朝鮮と米中の4カ国が調印し、現在の休戦協定に代わる恒久的平和体制を朝鮮半島に構築することを目指している。また、2)の北東アジアの安全保障維持機構は、現在の6カ国協議参加国を中心にフォーラムを構成し、次第に参加国を増やしてゆく計画だという。
・10月の南北首脳会談に関心が集まる
ブッシュ大統領が「金正日総書記と平和協定に署名したい」とのメッセージを盧武鉉大統領に託したことで、10月の南北首脳会談が脚光を浴びることになった。同総書記の答が、今後の展開を左右するからだ。盧武鉉大統領も11日の記者会見で「平和協定が南北首脳会談の核心的議題になる」と見通しを示した。平和協定を結ぶ案は、6月21日に訪朝したヒル国務次官補が朴義春外相や金桂寛外務次官と会談した際にすでに説明したことが明らかになっている。金正日総書記はその答えを持って10月の首脳会談に臨むことになる。
米韓両政府がこのように積極的なのは、北朝鮮が6カ国協議の合意履行に本格的に取り組み出したと見るからだ。バンコ・デルタ・アジアの北朝鮮資金凍結問題で合意の履行開始は遅れたが、核施設の封鎖、無能力化に向けた作業は進展した。11日からは、米中ロの核専門家が訪朝して、無能力化する核施設を視察した。核施設のような超秘密施設を外国の専門家に公開するのは、北朝鮮が無能力化を決断しなければ出来ないことと見る向きもある。
ブッシュ大統領は8月30日、日本の報道陣と会見し、「過去数ヶ月の成果を見て、核問題は進展していると信じるようになった」と発言。「任期中に核問題解決の任務を終えることは可能だ」と強調した。ブッシュ大統領の任期は09年1月まで残り1年4ヶ月。バーシュボウ韓国駐在大使も、こうした大統領の意欲に応えるかのように、12日のソウルのフォーラムで、「北朝鮮が来年中に全ての核兵器を廃棄すれば、米朝首脳会談が開かれる可能性がある」との楽観論を述べた。
・ブッシュ大統領は在韓米軍の撤退を決断するか
ブッシュ、盧武鉉両大統領が意欲を見せるのに対し、朝鮮戦争の関係国、中国の胡錦濤国家主席も前向きの姿勢を示した。同主席は7日、シドニーで盧武鉉大統領と会談した際、「関係国が適切な時期に朝鮮半島の平和構築に向けた協議を行う必要がある」との認識で一致した。朝鮮戦争の関係4カ国の会議は、97年12月から3回にわたって開かれたことがある。議題は今回と同じ、平和協定を結び、休戦協定に代わる恒久的平和体制を構築することだった。しかし、北朝鮮がその前提として、在韓米軍の撤退を強く要求、会議は進展しないまま立ち消えになった。
今回、4カ国会議が開かれれば、北朝鮮は同じ様な要求をするに違いない。北朝鮮は6ヶ国協議でも、米の敵視政策の撤廃を要求し、同政策のシンボルとして在韓米軍や米韓合同軍事演習を非難してきた。これに対し、ブッシュ大統領が従来どおりの対決姿勢で臨めば協議の難航は避けられない。しかし、米朝の関係は、北朝鮮が6ヶ国協議の合意履行に積極的なこともあって様変わりしている。同大統領が任期中に金正日総書記と平和協定に署名したいと呼びかけた背景には、在韓米軍の撤退も含め、それなりの決断をしたためとの見方も出来る。
ブッシュ大統領は任期中にイラク戦争を解決できないことが明白となり、北朝鮮の核問題で実績を残すことに方針転換した。だが、問題はそれを達成する十分な時間があるかだ。クリントン前大統領が米朝関係正常化を目指して訪朝を計画、部下のオルブライト国務長官を平壌に派遣したのが2000年10月。同大統領の任期は残すところ3ヶ月だった。これに較べれば、ブッシュ大統領に残された任期はまだ長い。念願通り、金正日総書記と平和協定に調印することが出来れば、北東アジアにとって一大転機となる。
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