今週のレコーディングはハード・スケジュールでした。初日はリズム録りが3曲。2日目はラテン・パーカッションのダビングに、ドラムスのダビング、そしてリズム録りが1曲、最後は口笛のダビング。3日目はダビングの日。仕事場で作った打ち込みの曲にハーモニカとバリトン・サックスをダビング、というのからスタートして、チェンバロ3曲、ヴィブラフォン3曲、アコーデオン1曲。
それにしても、いつも演奏しに来ていただくスタジオ・ミュージシャンの方々は、ホントに巧いのです。もちろん、巧いのが当たり前の世界。
それどころか、皆さん、ひとり一芸以上のことが出来る方ばかり、なのですね。芸達者、というか、何というか。
今回、ヴァイブの他に、ピアノを初め多くの鍵盤楽器を演奏していただいた香取良彦さん。ぼくが初めてお会いしたのは、トーキョーズ・クーレスト・コンボの2度目のセッション、コロムビアでアルバムを作ったときだった、と記憶しています。それから数多くのセッションでヴィブラフォンを担当していただいたり、またジャズのビッグバンド系のオーケストレイションを書いていただいたりしたことも何度か。
ところがあるとき、そうです、TOKIOの「涙くんさよなら」という曲の編曲をお願いしたときに、ピアノは誰が、と尋ねたら、香取さんがご自分で弾く、というので、へえ、ピアノもやるんだ、と思っていたら、コレがビックリするほどカッコいいのです。ナンと言うのかな、ぼくのような、あるいはジャズDJの人が考えるような、絵に描いたような「ジャズ」っぽいプレイ。具体的に言うと、テンションの選び方と、スペースの採り方が、ぼくにとっては絶妙なのです。というわけで、最近、いかにもジャズっぽいリズム・アレンジのときはピアノに香取さんを指名するようになりました。
おなじみウッドベースの河上修さん。ある意味、ぼくの音楽の師匠のひとりですが、この人もクーレスト・コンボ以来のお付き合い。河上さんといえばベースの他に有名なのが、口笛。今週のセッションでは1曲、一緒にお願いしたのですが、その音色といい、ヴィブラートの付け方といい、なんとも特徴があって。なんだかラジオの「小沢昭一的こころ」のテーマソングみたいですね、と言ったら河上さんが、アレもオレなんだよ、と言う。どひゃー。河上さんにも驚きましたが、自分の耳にもびっくりしました。聞けば、あの国民的に有名なジングルは、故・山本直純氏の手掛けたもの。生前の山本氏に気に入られた河上さんの、口笛吹きとしての代表作は「男はつらいよ」シリーズの浅丘ルリ子さんの「リリーのテーマ」だということです。
木曜日、初めてハーモニカを吹いていただいた西脇辰弥さん。ぼくがこの人と以前初めてお会いしたのは20年前、お互い松本伊代さんのアレンジの仕事でスタジオに入っていたとき。彼は若いバリバリのキーボード・プレイヤー兼編曲家でした。それからずーっとご縁がなかったのですが、今回、いつもお願いしているハーモニカ奏者の方がツアーに出ているとかで、紹介されたのです。聞けば、いまやクロマティック・ハープでは彼が日本の第一人者、とか。それもまだ始めてから8,9年、ということ、つまり、かつてぼくがお会いしたときはハーモニカの「ハ」の字も吹いていなかった、というのですからね。本当にトゥーツ・シールマンスか、スティーヴィー・ワンダーか、って感じのプレイでした。
そしてラテン・パーカッションのペッカーさん。ぼくが音楽の仕事をするようになる前から、日本一有名なスタジオ・ミュージシャンだったのでは。今回は3曲ともボンゴだったのですが、もちろんコンガもティンバレスも、マラカスもシェイカーも、ありとあらゆるパーカッションをやります。一時期、カホーン、という楽器に凝ってらしたのですが、最近アレは、と訊いたら、こんど教則DVDを出す、と仰ってました。
でもペッカーさんの余芸と言えば、やはりナレーションのお仕事なのでは。とあるスタジオで、CMナレーションの声のサンプラー盤、というのを戴いたら、もちろんペッカーさんが入ってました。そういえば、かつてピチカート・ファイヴのツアーでお馴染みだったギタリスト・ブラボー小松さんもCMのナレーションでは有名だったのです。
ひとつ分かったのは、みんなマイクロフォンの前でパフォーマンスすることに慣れている人たち、ということ。ちゃんとベスト・ポジションとか掴んでいるのですね。そしてみんなカッコいい。女の人がミュージシャンに憧れる、っていうのは、まさかヴィジュアル系の人とか、俳優兼歌手、みたいな人のことを言っているワケではないですよね。
7月23日、いよいよアルバムが発売されるビーチェさんも、今度、洋服のデザインをして、ブランドを立ち上げる、とのこと。eme、エメ、という名前のブランドだそうです。この人も一芸以上、の人だなあ。このブランド名、いっとき、ぼくに考えてほしい、というので、B.I..C.E.(ビー・アイ・シー・イー)にしなよ、と言ったのですがね、不採用でした。ビーチェズ・インターナショナル・クロージング・エクストラヴァガンザ。だったのですけどね、ダメでしたか。やはりオレには一芸すらありません。無芸の男。
さあ、きょうも「レコード手帖。」はプロムナード・レコーズ店主・白井俊哉さんの買い付け日記。いよいよ大詰め? この連載を読むと、朝からどこかで炭焼きハンバーガーとか食べたくなっちゃうので困ります。そしてもちろんレコードが買いたくなる。今週、ぼくも白井くんのお店でイイのを見つけましたよ。では、きょうも。
(小西康陽)