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生きる:とびひ=小川道雄・熊本労災病院院長 /熊本

 ◇ストレスで低下する免疫

 小児科や産科救急患者の治療が、医師不足で困難になっている。外科医の減少も深刻だ。日本外科学会の調査では、数年後に外科専門医の志望者はゼロになるという。

 先月末「外科医の減少を止めるために」というシンポジウムのまとめを依頼され、山形へ行った。そのとき顎(あご)の下に小さな発赤が出来たが、虫刺されと思い放置した。1週間経(た)っても治らず、少し広がり、かゆみが続く。自分で判断してステロイド軟膏(なんこう)を塗った。ところが一気に首全体が赤く腫れ上がって、かゆい。水疱(すいほう)もある。

 こうなると、なまじ医学を学んだものは弱い。いろいろな病気、とくに悪性の病気が思い浮かぶ。迷った末に意を決して、おそるおそる皮膚科部長の診察を受けた。一目見て「とびひ」の診断。検査をして数日後に確定した診断も同じ。

 「とびひ」の正式名称は「伝染性膿痂疹(のうかしん)」。火事のときに近くの家に燃え移るのを「飛び火」というが、掻(か)きむしると飛んで広がることから、こう呼ぶらしい。皮膚の表面に常在している黄色ブドウ球菌(ときに溶連菌も)が、虫刺され、あせも、湿疹(しっしん)などに感染したものだ。

 でも「とびひ」というのは、皮膚の弱い乳幼児が罹(かか)る病気ではなかったろうか。学生時代の皮膚科の講義でも「6歳未満に発症」と習ったように思う。私のような老人でもなるのかしら?

 皮膚は外敵に常に接している。外部からの侵入に対抗するため、皮膚には大量の免疫細胞(ランゲルハンス細胞)がある。それが外敵を認識して免疫反応をおこすので、なかなか感染はおこらない。それに大人の皮膚は硬いから「とびひ」はほとんどないと、うっすら記憶にある。

 昔から、がん患者にストレスがあったり、ショックを受けたりすると、急速ながんの進行がおこることが気付かれていた。研究がすすみ、精神状態が免疫機能の低下に深くかかわっていることがわかり、このようなときのがんの進行を、説明できるようになった。

 最近の自分の生活を振り返ってみると、重圧が増すばかり。医療従事者の絶対数不足、原油をはじめとする物価高騰を全く考慮しない医療費。その中で急性期病院の機能維持が最大の課題だ。医学部、医科大学、看護大学への人員確保の依頼、医療費改定後の収支の変化や見通し、新しい診療機器の購入計画……。

 今月初めに医療崩壊をテーマにした一般向けの本を出したのも、医療現場の実情を少しでも知ってほしいからである。

 皮膚科の先生は「大人もなりますよ」となぐさめてくれた。だが内心では、ストレスが免疫を低下させ「とびひ」が出たと勝手に解釈している。

 治療を受け、腫れや赤みは大分引いた。

毎日新聞 2008年6月27日 地方版

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