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『うばわれた心臓』は、プロの映画監督として、製作会社の依頼を受けて撮った最初の映画ということになる。ビデオ発売を目的とした30分の短編だが、35ミリフィルムで撮影され、きちんと映画として仕上げられた。これは当時はもちろん現在のビデオソフト業界においてもきわめて異例、かつ画期的なことであったといえるだろう。
「アギ鬼神の怒り」の劇場公開以降、僕の元にはさまざまな仕事の依頼が来た。だが、そのほとんどは、ロックバンドのプロモーションビデオやテレビのバラエティ番組の1コーナーを“特殊メイクを使って”演出してほしいといったもので、こちらが期待していたような“映画監督”の仕事ではなかった。
それでもただ依頼を断り続けていては、莫大な借金が膨らみ続けるばかりなので、背に腹は代えられないと手掛けたものもあった。「WORLD OF SFX」というタイトルの特殊メイク技術の紹介ビデオがそうだが、これなどは僕の記憶から消したい作品のひとつだ。
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もし「アギ」が興行的に成功していたら、僕にはすぐにでも取り組みたい次回作の計画があった。それは僕自身のオリジナル・シナリオで、コンピューターに侵入した“一次元生物”が地球を狂わせていく、という内容のSF映画だった。そのプロットは今読んでも驚愕するくらいうまくできていて、もしこれが思い通りの形で実現していたら、リュック・ベッソンよりもずっと早く僕が世界を席捲していたのに、と思う。
まあ、そんな妄想に近い話はさておき(笑)、「アギ」後に舞い込んできた仕事の中で、唯一僕にやる気を起させてくれたのが、この『うばわれた心臓』の話だった。
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