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拝啓お医者さま しあわせでした
医師を支える患者と家族からの手紙
2008年6月27日(金)0時0分配信 AERA
掲載: AERA 2008年6月30日号
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30年以上のトゲ抜けた
ちょうどニュースレター創刊を考えていた高橋さんは、手紙の全文を創刊号に載せ、誌名を「テレマカシー」にした。
「在宅医療に力を入れたくて開業したんですが、敏子さんたちが満足しているかどうかは不安でした。それだけに、手紙は嬉しかった」
小児科医として約35年の経験を積んできた聖路加国際病院の細谷亮太副院長(60)は、研修医時代に最初に受け持った小児がん患者、「彩ちゃん」のことがずっと忘れられなかった。
神経芽腫で、2歳で亡くなった。その心臓が止まった時、細谷さんは懸命に心臓マッサージをし、口から息を吹き込んだ。しかし、震える手で当てた聴診器から聞こえてくるのは、自分のドキドキした変な音ばかりだった。涙があふれた。
「医師になりたてで未熟で、十分なことができなかったのではないかと、彩ちゃんのことはずっと『トゲ』のように、心にひっかかっていました」
昨年、ラジオ番組でそんな話をした。するとほどなく、彩ちゃんの母親から手紙が届いた。
——彩のこと覚えていて下さったんですね。明日……三十四回目の命日です。先生のことを思いますと、万感胸に迫るものがございます。彩はホショヤセンセイが大好きでした。廊下を歩かれる先生の足音ですぐわかり、アッ、ホショヤセンセイダ!と目を輝かせたものです。夫と常々、先生はきっと立派なお医者様になられるわねと話し合っておりましたが、その後の御様子を御著書やテレビ、新聞などで拝見し、“やっぱり!”ととてもうれしく誇らしく思っておりました……
「この手紙は、私の心に長年刺さっていたトゲを抜いてくれました。患者さんやご家族からのお手紙はみんな、私の宝物。大切にとってあります」
三重大学病院総合診療部の竹村洋典准教授(46)にとって、アメリカで「家庭医」の研修をした時にもらった一通の手紙が、その後の人生を決めた。担当した70代半ばの喘息の女性の子どもたちからの手紙だ。
人生決めた遺族の手紙
進んだ肺がんが見つかったその女性は、折に触れて竹村さんに訴えていた。
「延命治療はしないで」
カルテの表紙に大きく「DNR(延命治療をしないで)」と書いたが、女性が自宅で呼吸困難に陥って救急車で病院に運ばれた時、救急措置で人工呼吸器がつけられた。一通りの治療が終わってから連絡を受けた竹村さんは、人工呼吸器をつけられた女性を見て心が痛んだ。
「あんなに延命治療はして欲しくないと言っていたのに……」
女性の子どもたちや自分の指導医、病院長と話し合い、3日後に人工呼吸器を外した。
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