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医療は国の力、医師に活躍の場を

【第17回】 全国医師連盟代表・黒川衛さん

 全国の病院の勤務医らが参加する新しい組織「全国医師連盟」が発足した。医師会など既存の組織と比べて若手勤務医の会員が多く、病院医療の立て直しを目指して、勤務医の労働環境改善などの施策を訴えている。初代代表に就任した黒川衛さんが目指すのは、医師が活躍できる環境の実現だ。(兼松昭夫)

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■きっかけはネット上の議論

―全国医師連盟発足の経緯についてお聞かせください。
 日本の医学・医療は明治維新以降、さまざまな変遷をたどってきました。その中で、特に医師会は、開業医中心の組織として、戦後日本の保健衛生水準の増進に大きく貢献してきました。しかし、日本の医学技術が戦後の変革期を経て飛躍的に進歩するにつれて、医療における病院の役割が大きくなり、患者さんの間には次第に“大病院志向”が広がります。
 1990年代後半になると、医療事故をめぐる訴訟や報道が増え、医療への不信が叫ばれ始めました。医療へのバッシングが強まるにつれて、“医療事故冤罪(えんざい)”とでも呼ぶほかはない不当な判決が増えました。

 2004年度には新医師臨床研修制度がスタートし、大学医局が地方の病院から医師を引き揚げます。これによって勤務医不足が深刻化し、病院勤務医の過労自死などの問題も顕在化します。いわゆる「医療崩壊」の時代です。ところが、医師会や学会など既存組織は、これらの問題に十分に対応してきたとは必ずしも言えません。
 こうした状況がインターネット上のブログなどで話題になり、自分たちで医療を立て直そうという機運が高まりました。やりとりには医師だけでなく、弁護士や検事など法曹関係者も加わり、やがてはネットの枠を超えて関係者が合流するようになりました。こうした一連の動きが、昨年9月の連盟設立準備委員会の立ち上げにつながったのです。

 医療問題に対応するのは、何も既存の組織だけでなくてもいいというのがわれわれの考えです。「医療崩壊」が深刻化する今の時代、再生をどう実現するかを考える新しい組織が誕生してもいいのではないでしょうか。

―全医連では、▽診療環境の改善 ▽医療情報の発信 ▽法的な原理的な解決―を3大プロジェクトに位置付けています。
 最近では、勤務医の過酷な労働環境が問題視されていますが、医師も人間です。精神的に人並みのゆとりがなければ、患者さんの訴えに十分に耳を傾けることはできません。特に公立病院では、医療法上の人員配置基準が無視されたり、労働基準法の違反が放置されたりするケースが目立ちます。時間外勤務手当が支払われていないことすら多いのです。わたしたちは、こうした状況が改善されることを切に願います。具体的には、医師が個人加盟する労働組合「ドクターズユニオン」を立ち上げ、あまりにも目に余るケースについては、ここを通じて声を上げていく方針です。

 また、レスキュー隊や医師による救命活動業務に対する部分的な刑事免責の実現も大切なテーマです。これに関しては、新法による制度化を訴えていきます。医師が救命活動に当たる上では、ある程度のリスクを覚悟してでも対応せざるを得ないケースが実際にありますが、現在は、こうした場合に刑事罰が免責される仕組みがないため、現場が委縮しています。これでは結果として患者さんが不利益を被ることになりかねません。
 ただ、刑事罰の部分免責が実現したとしても、医療事故の被害に遭われた患者さんやご家族が救済されなければ意味がありません。こうした有害事象は、医療提供側に過失があろうとなかろうと、一定の確率で発生します。そのため、被害者やそのご家族を救済する制度は不可欠です。これらについてはセットで確立する必要があるでしょう。

 もう一つ、委縮医療の解消には、医療裁判で誤った判決を出さないための仕組みづくりも必要です。全医連発足のきっかけにもなったネット上の論議では、最近の医療裁判について特に活発に意見が交わされていました。裁判の大半では、医療従事者から見ても妥当な判決が出されていますが、一部には不当判決としか思えないものもあります。正しい判決が9つあっても、不当判決が一つでもあれば、現場の目はどうしてもそちらに向くのです。

―「医療情報」の発信についてはどのような形をお考えでしょうか。
 例えば、先程の労働環境に関しても、医師の36時間連続勤務の実態も、一般にはよく知られていません。まさかほとんど寝ていない医師の手術を自分が受けているとは、患者さんは夢にも思わないでしょう。日本では、高度な医療システムが成立しているかのように見えますが、実際には医師や救急隊員、看護師などの犠牲の上に成り立っているのです。いわば“医療制度偽装”とでも呼ぶべき状況です。こうした状況が、患者さんに不利益をもたらす可能性がある以上、医療現場の実態を国民に知らせる必要があるでしょう。

 メディアとの関係では、われわれが一方的に情報を伝えるのではなく、例えば記者懇談会などで情報交換できる形を目指します。メディアとのコミュニケーションが不足すれば、互いに疑心暗鬼に陥りかねません。こうした試みは、既存の組織ではあまり取り組んできませんでしたが、実は非常に重要なのではないかと考えています。

■医療を発展させ外資獲得も

―全医連の今後の展望についてお聞かせください。
 全医連の会員数は現在、760人程度です。今後の数年間で1万人規模の組織に育て上げるのが当面の目標です。会員の75%が勤務医で、現時点での平均年齢は45歳。決して若くはありませんが、病院の第一線で活躍する先生が多く、若手医師の意見を反映させることもできるのではないかと考えています。組織運営が落ち着くまでは、さまざまな変化への迅速な対応が求められます。そのため役員の任期は当面1年間にし、年度ごとの総会で選出する形を採ります。運営が軌道に乗った段階で、2年程度への延長も検討する方針です。日本医師会など代議員制を採っている組織では、会員の意見を運営方針に反映させにくいのが現状です。これに対して全医連では、代表と運営委員30人とを会員による全員投票で決めるのが大きな特徴です。

―社会保障費をいかに抑制するかをめぐって活発な議論が交わされています。
 政府の経済財政諮問会議などには、医療費をまるで無駄金のように受け止める人たちがいます。これに対してわたしたちは、日本の医学・医療は、患者さんだけでなく社会全体を元気づける力を持っていると強調したい。こうした点については、医師会や学会、全国医学部長病院長会議といった先輩組織とも連携しながら主張していきたいと考えています。
 日本の医師たちは、国際的にも非常に高いコストパフォーマンスを実現しており、かなりの国際競争力を持っています。こうしたわれわれの力は本来、国全体で共有できるものです。医療を発展させれば、海外から日本の医療を受けに来る患者さんが増えるでしょう。日本初の診療技術が海外に宣伝できれば、海外の多くの患者さんの救命につながり、外資の獲得や日本の医療産業の発展にも大きく貢献できるでしょう。

 わたしたちが望んでいるのは、単に労働環境の改善や医療費抑制の撤回を実現するだけでなく、これらを通じて、患者さんと病気に対峙(たいじ)するという医師本来の役割を果たすことです。われわれに活躍の場を与えていただきたいのです。


更新:2008/06/27 20:00   キャリアブレイン


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