社会保険庁で、許可なく労働組合の活動に専従しつつ、通常の給与を受け取る「ヤミ専従」が長年常態化していたことがわかった。全国社会保険職員労組(約1万人)の20〜30人が、97〜04年に5億円前後の給与を不正に受け取っていたとみられる。高端照和委員長は責任をとって辞任する見通しで、ヤミ専従に絡んで労組トップが辞任するのは極めて異例。管理職の一部も黙認していたといい、社保庁の管理態勢に改めて批判が高まりそうだ。
社保庁は、職員の服務規定違反だとして関係者を処分し、給与の返金を組合側に求める方針だ。社保労組は返金に応じる方針。ほかの労組でもヤミ専従があったとみられ、不正給与総額はさらに膨らむ可能性がある。
社保庁の後継組織のあり方について検討している政府の「年金業務・組織再生会議」の指摘を受け、社保庁が昨年12月から過去10年間にさかのぼって実態を調べていた。
関係者によると、07年4月にできた社保労組の前身の自治労国費評議会で、労使慣行が見直される04年まで数十年にわたってヤミ専従が続き、組合が負担すべき給与が税金から支払われていた。社保労組は「言い訳できないことで反省している」と認める。
社保庁は、全厚生労組(社保庁関係組合員約2200人)でも、同様のヤミ専従が行われていたとみている。処分を受けた職員は、社保庁の後継組織として10年に発足する日本年金機構に採用されない可能性もある。第三者委員会が処分歴や能力をもとに審査し、職員数を絞り込むためだ。
不正の規模が大きく長期間にわたることから、上司だった管理職も黙認していた可能性が高い。社保庁関係者も「地方の職場によっては長年の労使慣行となっていた」と認めており、管理側の責任も問われる。
社保庁を巡っては、労組と結んだ100件近くの業務内容に関する覚書や確認事項が発覚。「国民年金保険料の督促状発行はゼロでもよい」といった項目もあり、批判を受けて05年1月までにすべて破棄された。
不適切な労使関係は「消えた年金問題」の一因といわれ、社保労組は今月、「労使関係や当時の活動が、国民の利便性向上にマイナスをもたらした部分もある」と自己批判する報告をまとめている。一方で、組合内には「すべての問題が労組の責任のように決めつけられている」といった不満も根強い。