どのような企業でも、現場部門から積み上げ目標を提出させ、同時に経営としての要求目標を設定し、厳しい折衝を経て企業目標を決定する。積み上げ目標はまた成り行き目標とも呼ばれるが、このような数値が許容目標となれば、企業は勝ち残れない。
温暖化対策として日本政府が主張しているセクター別アプローチは、各産業が達成可能な積み上げ目標を許容目標としたいというものである。積み上げ目標を主張する一部業界や政府は、地球温暖化を阻止し得ない。
厳しい必達目標を課すことで、企業も国家も強靱(きょうじん)な体力を身につけることが出来るし、何よりも発展に不可欠なイノベーションを誘発できる。我が国の多くの企業は世界に冠たる環境技術を発展させてきた。政府の役目は圧力業界に同調するのではなく、そのような技術開発を促進し、企業や業界の競争力を強化することである。
元々、先進国は産業革命以来CO2を無制限に吐き出し続ける一方、途上国ではCO2を吸収してきた。CO2で人類の持続的発展を脅かす危険が顕在化したといって、歴史の贖罪(しょくざい)意識などそっちのけで、十数年にわたり割り当てのせめぎあいを繰り返している。
来月の洞爺湖サミットは、セレモニー主催しか野心がなさそうに見える福田首相にふさわしく、環境、開発・アフリカ、世界経済、不拡散などの政治問題という先送りに格好なテーマばかりである。言うも詮無(せんな)いが、社会が劣化し経済も一流国から転落したこの国のCEOとして、産業界を叱咤(しった)激励し、低炭素社会に向けて世界の先端を走るべく舵(かじ)を切れば、歴史に名を残す唯一の機会となるのだが。(匡廬)