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社説2 排出量取引、効果ある試行を(6/27)

 地球温暖化防止に絡み福田康夫首相は今秋から温暖化ガスの排出量取引の試行を表明したが、関係省庁の原案ではそれがこころもとないものとなりそうだ。拙速で形を取り繕うばかりで、これではせっかくの政治決断が生かされない。もっと前向きに制度をつくらないと、国際的なルールづくりで除外されかねない。

 国内の排出量取引は今春から経済産業、環境両省が有識者を集め、競い合うように制度を議論してきた。それぞれがまとめた中間報告では経産省案は業界ごとにエネルギー効率を基準にするベンチマーク方式を、環境省案は欧州連合(EU)の制度をもとにした4方式を有力候補として挙げている。

 だが、今秋からの試行では方式の議論は全くの棚上げ。経産省ばかりか環境省も、日本経団連の自主行動計画を前提に参加企業に対し削減目標を自主設定させる制度を提案し、有力候補の方式を試すという気概はうかがえない。一部産業界の強い導入反対に気兼ねして、小手先の実験で済ます姿勢がありありだ。

 排出量取引は排出削減に経済的な価値を与えて市場メカニズムで排出削減や技術革新を促す。企業に排出削減を義務づけるから、排出枠の過不足分の売買が成立する。目標の自主設定では削減できる範囲の目標しか申告されず、制度は機能しない。両省の実験提案ではどの方式が合理的なのかを探れず、制度づくりには役立つまい。

 制度づくりで政府は東京都に先を越されている。都議会はエネルギー使用量の多いビルや工場など約1300の事業所に排出削減を義務づけ、排出量取引を導入する条例を可決した。制度開始は2010年度。都は1年以上かけて制度を詰め、産業界からの反対論もことごとく論破して退けた。都知事の指導力を政府、首相は見習うべきではないか。

 排出量取引をめぐる世界の動きは速い。EUに続きカナダなども市場整備に動き、米国でも一部有力州が制度づくりを進めている。いずれ制度を共通化し、市場もリンクするだろう。周回遅れの日本が取り残されないためには、一刻も早く国際的に通用する制度を設計し、本格導入の時期を示す必要がある。

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