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社説:北朝鮮の申告 核廃棄へ疑念残すな 拉致は再調査生かし打開を

 北朝鮮が核計画の申告書を6カ国協議の議長国である中国に提出した。これを受け、米国は北朝鮮のテロ支援国家指定を解除する手続きに入った。

 6カ国協議を舞台にした北朝鮮の核問題は大きな節目を迎えた。一歩、いや半歩前進と言えるかもしれない。しかし、申告には最大関心事の核兵器情報が含まれず、高濃縮ウランによる核開発計画とシリアへの核技術支援に関する情報は別文書に記すという。

 これでは完全で正確な申告とは言えない。これで朝鮮半島の非核化を実現できるのだろうか。申告に対する徹底した検証が必要だ。

 米国が北朝鮮をテロ支援国家に指定したのは1988年、前年に起きた大韓航空機爆破事件を受けてのことだ。指定から20年ぶりの解除ということになる。

 指定を解除されると世界銀行などの融資や国際的な経済援助を受けることが可能になる。経済事情が厳しい北朝鮮は、テロ支援国家指定という米国によるペナルティーから一刻も早く免れたかったに違いない。

 ◇指定解除急ぐ米

 指定解除に関しては、「北朝鮮側の行動」と並行して履行することが昨年10月の6カ国協議合意書に明記された。「北朝鮮側の行動」とは核施設の無能力化と核計画の完全・正確な申告をさす。指定解除はそれに対する見返り措置であったはずだ。

 確かに、北朝鮮は寧辺にある黒鉛減速炉など三つの施設に関する86年以降の稼働記録を米国に提出するなど協力的な姿勢を示してはきた。しかし、核施設の無能力化は、そもそも昨年末に終えていなければならない約束事だったのだ。

 しかも、核計画の申告が行われたばかりで、検証の方法も議論されていない段階での解除手続き開始は、やはり急ぎすぎではなかろうか。

 米国の立場は、核問題の進展を重視するということだろう。だが、7カ月後に迫ったブッシュ政権の任期切れをにらみ、外交成果をあげるため甘い合意で妥協を図ったと受け止めざるを得ない。

 甘いといえば、米国が昨年、マカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)

にある違法性の高い北朝鮮関連資金の凍結解除に踏み切ったのもそうだ。

 北朝鮮は05年9月の6カ国協議で「すべての核兵器と現存する核計画の放棄」を約束しながら、1年後に核実験を行った国である。申告を受けて6カ国協議参加国がまず取り組むべきは、米国による指定解除が発効するまでの間に有効な検証体制を決め、速やかに実行に移すことである。

 北朝鮮は指定解除を将来の米朝国交正常化へのステップと受け止めているはずだ。日本との公式協議に9カ月ぶりに応じたのも米国の働きかけがあったためだ。米国によるテロ支援国家指定は、日本にとって拉致問題を動かす一つのテコでもあったのだ。

 福田康夫首相は「北朝鮮の核問題が解決する方向に進むのであれば歓迎すべきことだ」と述べている。

 この発言に異存はないが、今回の申告を完全な核廃棄へつなげるステップにするための担保は北朝鮮からとっておく必要がある。日本も一層の外交努力が必要だ。

 ブッシュ米大統領は福田首相との電話協議で「拉致問題を決して忘れない」と伝えたという。しかし、指定解除は核問題と拉致問題を分離する米国の立場を明確にするものとも言える。拉致、核、ミサイルの問題を相互に関連させながら決着を目指す日本にとって痛手になるのは間違いない。

 日本は北朝鮮へのエネルギー支援に参加していない。拉致問題を含む日朝関係の進展を支援参加の条件にしているからだ。

 ◇厳密な検証が必要

 各国は日本のこの方針を了解しているが、今後は雰囲気が変わってくるかもしれない。すでに、韓国は日本のエネルギー支援参加に期待を表明している。日本が今後も支援不参加の姿勢を変えなければ、「日本が非核化プロセスを遅らせている」との批判を招きかねない。

 だからといって安易に北朝鮮支援に乗る必要もないだろう。支援参加問題は拉致問題の進展をにらんで慎重に判断した方がいい。

 懸念すべきは、北朝鮮が指定解除という当面、最大の目的を果たせる見通しになったことで、日本に約束した拉致問題の再調査をうやむやにしないかということだ。そうさせないよう、米国との連携を緩めないことが大事だ。

 米国が国内法に基づいて指定解除へ動き出したからには、その現実を受け止めて今後の対応を考えるしかない。北朝鮮に対する米国の影響力行使を引き続き求めていく必要がある。

 米側も申告の検証結果によっては指定解除の撤回もありうると言っているのだから、その覚悟で臨んでもらいたい。

 拉致問題を動かすカギは、日本が納得できる再調査ができるかどうかにかかっている。北朝鮮には誠意ある態度で再調査協議に臨むよう改めて強く求めておきたい。

毎日新聞 2008年6月27日 東京朝刊

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