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社説

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北朝鮮の申告―完全な核放棄につなげよ

 ようやく北朝鮮から核開発の申告書が出てきた。詳しい内容はまだ分からないが、北朝鮮の核放棄を目指す6者合意に沿った重要なステップである。

 昨年の6者合意は三つの段階を想定している。第1段階は核関連施設を凍結・封印すること。第2段階ではそうした施設が使えないよう「無能力化」し、核計画の全容を申告する。第3段階で核の放棄を完成させる。

 これまでに第1段階は終え、無能力化の作業が進んでいる。申告は第2段階で実行すべき最後の項目にあたる。昨年末が期限だったが、米国との事前協議が長引き、半年遅れになった。

 見返りに、米国は北朝鮮のテロ支援国家指定を解除する手続きに入った。

 再び6者合意のプロセスが進み出したのは歓迎したいが、もろ手をあげてというわけにはいかない。

 第一に、無能力化の作業がまだ全体の半分にも達していないことだ。北朝鮮は6者協議参加国のメディアを招き、きょうにも核施設のひとつを爆破してみせるという。映像的効果を狙ってのことだろうが、原子炉から使用済み核燃料を取り出すなどの実質的な無能力化をきちんと履行すべきだ。

 第二に、申告の中身が本当に核開発の全容を明らかにするものなのかどうかだ。事前の報道によると、北朝鮮が約束した「完全かつ正確な申告」とはとても言い切れない内容のようだ。

 というのも、保有しているはずの核兵器の数や保管場所といった核心の情報が除外されているというのだ。申告はプルトニウムを使った核開発に限られ、ウラン濃縮には触れていないと言われる。シリアなどへの核技術拡散の疑惑にも答えていないらしい。

 あいまいなままでは済まされない問題ばかりだ。

 それでも、申告自体は前進と見るべきだ。北朝鮮の核の脅威が減るわけではないにせよ、少なくとも新たな核兵器の原料が作れない状況は一歩進む。

 なによりも大事なのは、核を手放させるという第3段階がいよいよ視野に入ってきたことだ。

 これからすべきことははっきりしている。早急に6者協議を再開し、北朝鮮の申告内容を検証する方法を決めることだ。北朝鮮は現地調査や技術者の聞き取りなどに誠実に応ずるべきだ。そのうえで、第3段階の具体的な手順を早く詰めてもらいたい。

 任期切れが近いブッシュ米大統領に焦りがないとはいえまい。申告に偽りがあればプロセスを戻すこともあり得るだろう。大統領は記者会見で、拉致問題は置き去りにしないと強調した。

 日本の安全のために、何としても北朝鮮に核を放棄させる。その過程で、拉致というむごい犯罪に解決の道を開く。この原点を見失わずに、前に進むことだ。

グッドウィル―派遣業界を変える契機に

 あまりにも多くの法令違反を重ねていた。そのツケは大きかった、ということだろう。日雇い派遣大手の「グッドウィル」が、来月いっぱいでの廃業に追い込まれた。

 規制緩和の流れを受け、労働者派遣の拡大とともに成長した「業界の象徴」ともいえる会社である。

 だが、規模が大きくなる一方で、法令違反やトラブルが相次いでいた。禁じられた仕事に労働者を派遣し、二重派遣にもかかわった。「データ装備費」といった名目での不透明な天引きも問題化した。

 05年に事業改善命令を受けたが、その後も違法派遣が続き、今年初めには2〜4カ月の事業停止命令を受けた。今月、社員が逮捕されたことが、廃業への直接の引き金となった。

 このままいけば、解雇される正社員や契約社員は約2千人にのぼる。グッドウィルから派遣されて働く人たちは1日に約7千人いる。

 仕事を失う人に対し、新たな職場をできる限り確保しなければならない。グッドウィルの責任であることは言うまでもないが、行政もきめ細かな相談や職業紹介をしてもらいたい。

 もちろん、グッドウィルがなくなったとしても、派遣の現場が抱える問題が解決するわけではない。

 登録していた働き手の多くは今後、別の業者に流れそうだが、法令違反を指摘されているのはグッドウィルだけではない。

 そもそも違法派遣の背景には、1日単位で契約する日雇い派遣という働き方があまりにも大きく膨らんでしまった現状がある。

 明日の仕事の保証すらなく、生活は不安定きわまりない。将来の見通しも立てにくく、ワーキングプア(働く貧困層)の温床になっている。

 「まともな指導もないまま、危ない仕事をさせられる」「業者が差し引く手数料が多すぎる」といった不満があっても、不安定な契約だから、なかなか声を上げられない。

 日雇い派遣が現状のままでいいはずはない。そんな考えが政府や国会でもようやく広がってきた。

 舛添厚生労働相は先ごろ、「日雇い派遣は厳しい形で考え直し、やめる方向で行くべきだ」と発言した。野党で進む議論も「原則禁止」の方向だ。

 業界側には「日雇い派遣は必要とされている」との声がある。たしかに専門性のある業種などで1日ごとの契約になじむ仕事もあるだろう。

 しかし、この不安定な働き方は例外的なものであるべきだろう。原則禁止にするか、思い切って業種をしぼるしかあるまい。労働者派遣法の改正へ向け、国会で議論を深めてもらいたい。

 グッドウィルの廃業を、日雇い派遣のあり方を見直す契機にしたい。

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