発生すれば世界中で猛威を振るうと懸念される新型インフルエンザについて、与党のプロジェクトチームが対策の強化策をまとめ、公表した。
新型の発生後、原因ウイルスからつくるパンデミック(世界的大流行)ワクチンを半年以内に全国民分供給する。タミフルなど治療薬の備蓄も倍増するなどの内容で、近く政府がまとめる「骨太の方針」や、改定される新型対策の国の行動計画に反映させる考えだ。
パンデミックワクチンの製造期間大幅短縮は重要だ。新型インフルエンザワクチンのうち、鳥インフルエンザウイルスからつくるプレパンデミック(大流行前)ワクチンは事前に製造、備蓄できるが、効果のほどが定かではない。より確実なパンデミックワクチンは、鶏卵を使う従来の製造法では全国民分の確保に発生から一年半かかるのがネックだった。
提言は、新技術である細胞培養法の活用などで半年間での達成を求めた。実現には海外からの技術導入が不可欠との見方があるが、必要ならやればよい。ワクチン製造が早ければ早いほど、多くの人が助かる。
治療薬の備蓄は現在全人口の23%分程度だが、段階的に40―50%程度に引き上げる。
そのほか、大流行時に食料や生活必需品をどう確保し、国民に供給するかの問題に触れ、また自衛隊の医官や自衛隊病院の活用などにも言及した。厚生労働省をはじめ省庁主導でまとめられた従来の対策ではあいまいだった部分だ。
だが、提言が積み残した課題も多い。ワクチン接種に関して重症化の恐れが大きいとされる子どもを優先させる方針を打ち出したものの、現在国が約二千万人分を備蓄しているプレパンデミックワクチンについては、絶対量が限られることから接種対象や優先順位を引き続き検討するよう国に求めた。
都道府県知事らは新型の流行時に迅速に対応できるよう地方に必要な権限を与える法整備を要望していたが、こちらも「必要性を検討する」との文言が入るにとどまった。
対策充実のために必要な予算や人員の確保についても、必要性を説いているだけだ。
それでも提言は、今の段階で取り組むべき課題や検討事項を明らかにした点で、価値があろう。鳥インフルエンザウイルスの変異による新型インフルエンザの発生は時間の問題といわれ、国内の死亡者数が六十四万人に達するという推計もある。政府はしっかり受け止め、対策の充実強化を図ってもらいたい。
経済産業省原子力安全・保安院が、原発の運転を止めて設備を点検する定期検査の間隔を延長し、長期間連続運転できるようにする新制度導入に向け、省令の改正案をまとめた。
原発の定検終了から次の検査開始までの期間は現在、十三カ月以内と決められている。新制度は、これに十八カ月以内と二十四カ月以内を追加しようというものだ。実施されれば、原発の稼働率向上につながる。
一般から意見を募集した後、早ければ年内にも導入される見通しという。しかし、ここは慎重な対応が求められよう。
原発の長期連続運転については、地球温暖化防止にもつながるとして国も前向きに検討してきた。保安院は当初、今年四月からの新制度導入を予定していたが、原発立地自治体から「稼働率向上ではなく安全を最優先にすべきだ」などと反発する声が強く、見送られた。
背景には、昨年七月の新潟県中越沖地震で被災した東京電力柏崎刈羽原発で火災やトラブルがあり、安全性への懸念が強まったことが挙げられよう。その後、保安院は地元の理解を求める説明を繰り返してきた。
新制度では、保安院が原発ごとに設備の劣化状況や安全性などを審査し、連続運転できる期間を決める。二十四カ月運転の導入は「安全確保のデータを蓄積する必要がある」として制度改正から五年後となる。
原発立地住民の間には、定検間隔の延長で「安全性が犠牲になるのでは」との懸念は根強かろう。トラブル隠しなど度重なる不祥事で電力業界への不信感がぬぐえないからだ。国側の言う「安全」と、不安を抱く住民の「安心」とのギャップを埋める努力が必要だろう。より一層厳格な検査と、業界の透明性確保が求められるのは当然だ。
(2008年6月26日掲載)