学校教育に関する記事

2008年5月19日

「先生は大変?」霞が関バトル 文科省・人員不足士気に影響 財務省・現場の工夫足りない 国際比較でも真っ向勝負

 先生は大変って本当? 小中学校教師の多忙さの評価をめぐり、東京・霞が関でバトルが繰り広げられている。文部科学省が「教師は必死にやっているが、人員不足で手が回らない。現場の士気にかかわる」と教員増を求めたところ、財務省は「歳出歳入一体改革に基づく厳格さが必要。学校現場、引いては先生の工夫が足りないだけ」と突き放した。相手を論破しようと国際比較データを持ち出すなど互いに引く様子はない。 (東京報道部・稲田二郎)

 論争のきっかけは、文科省が策定中の教育振興基本計画。日本の教育予算は国内総生産(GDP)の3.5%に当たる約17.2兆円。これを「5.0%以上にする」と計画に盛り込み人員増を目指す文科省が、財務省と折衝した際、教師の働きぶりに話が及んだ。

 ▼争点1 教師1人当たりの児童生徒数
 文科省
「小学校は19.4人、中学校は15.2人で、経済協力開発機構(OECD)諸国の平均と比べれば、それぞれ2.7人、1.4人多い。教師不足は明らか」

 財務省「主要先進国(G5)平均なら中学校は15.8人で、ほぼ同じ。OECDと比較する意味が分からない」

 ▼争点2 教員の拘束時間
 文科省
「昼の休憩などを含めた小学校教員の拘束時間は年1400時間。米国1080時間、フランス918時間などと比べても長く、日本の教師は長時間労働だ」

 財務省「厳密に授業時間をみると、日本の小学校は578時間。米国の1040時間などG5平均より3割も少ない」

 ▼争点3 残業時間
 文科省
「小中学校教師の月平均残業は2006年度実績で34時間。1966年度に比べて26時間も延びている」

 財務省「66年度調査は、現在は残業に繰り入れている自主研修などを外していた。集計手法を統一すればほぼ同じ」

 ▼争点4 学校現場の事情
 文科省
「直面する問題点は年々困難になっている。給食費未納者がいる現場は小学校の4割、中学校で5割。精神疾患となった教師の割合は10年で3.5倍に増えた」

 財務省「給食費未納は一学校平均で3人程度。精神性疾患の顕在化は全産業にみられる傾向」

 ことごとく反論された格好の文科省。渡海紀三朗文科相は「主張の違いは以前からある」と冷静を装うが、同省幹部は「データに表れない生徒指導の苦労なども考慮し、国民の評価を勘案して判断すべきだ」と激怒、再反論する構えだ。

 一方、財務省幹部は「現体制で立派に運営している学校もある。教師が忙しくて人手不足という根拠が分からない。会議の合理化などで余裕はつくれる」と冷徹。決着がつくまで教育振興基本計画の策定も遅れそうだ。

    ×      ×

 ●どっちもどっちの議論

 ▼日本教育行政学会の役員を務める中田康彦・一橋大大学院准教授の話 校内会議など学校現場の事務効率化はかなり進んでいるが、個人差を考慮しても教師は大変だと思う。財務省は教育にも市場原理感覚が必要と言っているのだろうが、それで押し切るのはいかがなものか。文科省も、選択と集中という時代の流れの中、急に教員増を要望するのは唐突。説明が10分でない。どっちもどっちという気がする。保護者の声も加味すべきで、それが議論に入っていないことも問題だと思う。

=2008/05/19付 西日本新聞夕刊=