政府が決めた地方分権改革推進要綱は、国から地方への権限移譲の「一の矢」の意味合いがある。それがまたしても官僚の抵抗で後退したのは問題だ。分権が内閣の単なる「お飾り」ではいけない。
要綱は、政府の地方分権改革推進委員会が提出した第一次勧告を踏まえ、まとめた対処方針だ。
国がデザインした全国一律の「既製服」を地方に押しつけても、好みやサイズが合わない自治体も多いだろう。ならば自らの裁量でつくった方が個性ある行政ができる−。これが地方分権の基本理念だ。
実効性のある分権へ「入り口のドアを開けて一歩踏み出した」(丹羽宇一郎委員長)のが第一次勧告。教育、福祉など約四十項目で権限移譲を求めた。ところが、要綱作成で関係各省が分権のドアを閉じようとする動きに出た。
要綱では冒頭「第一次勧告を最大限に尊重する」と宣言しながら、具体的な方針をみると、次々と骨抜き個所が出てくる。
例えば、福祉施設などの設置基準について、勧告では地方独自に決められるよう提言したのに「地方が創意工夫を生かせる方策を検討し、結論を得る」と、主体は国のままだ。「都道府県に移譲する」と明記された農地転用の許可権限も「検討を行う」のお役所言葉が登場。直轄国道や一級河川の移管についても、表現がさらにあいまいになった。
増田寛也総務相は「勧告で二歩進み(今回は)一歩後退」と、霞が関や族議員の主張に耳を傾けたことを暗に認めた。配慮が過ぎないか。今後、分権委員会は国の出先機関の見直しと税財源移譲について順次勧告する。ヒトとカネの問題は官僚にとって守るべき「本丸」であり、さらなる抵抗が予想される。政権としての毅然(きぜん)とした姿勢を「一の矢」の段階で打ち出しておくべきだった。
分権を内閣の最重要課題と銘打っているのは福田康夫首相である。このままでは「看板に偽りあり」ではないか。次の焦点である国土交通省の地方整備局など出先機関の廃止・縮小にどこまで切り込めるか。挽回(ばんかい)へ大胆な決断を期待する。実行できないなら分権の旗を掲げるのはやめてもらいたい。
地方の側にも権限移譲を「ありがた迷惑」ととらえる旧思考の首長がいる。住民が主役の地方自治に向けて首長の意識改革も不可欠だ。そうでないと、官僚側につけ入るすきを与えることになる。
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