音声ブラウザ専用。こちらより記事見出しへ移動可能です。クリック。

音声ブラウザ専用。こちらより検索フォームへ移動可能です。クリック。

NIKKEI NET

社説2 柳井報告を軽んじるな(6/26)

 福田康夫首相にとっては受け取りたくない報告書だったのだろう。安倍政権が設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長、柳井俊二元駐米大使)の集団的自衛権の憲法解釈見直しに関する報告書である。

 柳井氏は24日夕刻、首相に報告書を提出した。前日には段取りが決まっていたにもかかわらず、首相官邸は直前まで公表しなかった。テレビに取材され、映像が残るのが嫌だったらしい。

 柳井懇談会は安倍政権の遺産である。集団的自衛権の憲法解釈の見直しには公明党が消極的であるうえ、民主党内には積極論がある半面、小沢一郎代表は反対論者だ。衆参ねじれの現実の政治状況を考えれば、福田首相は無用な波乱要因を避けたいのだろう。

 集団的自衛権は保有するが、その行使は憲法上できないとする歴代政府の解釈は、自衛隊が国際協力活動をする際の制約となっている。

 2000年10月、米大統領選挙の直前に米国の超党派の安全保障専門家がまとめたアーミテージ・ナイ報告は、日本に集団的自衛権の見直しを提言した。01年9月、米同時テロが起き、私たちは集団的自衛権の解釈の変更を前提にした多国籍軍後方支援法の制定を提案した。

 国際的責任だけではない。日本自身の安全保障、さらに北朝鮮のテロ支援国家指定の解除をめぐって日米同盟が揺らぐ予想を考慮に入れればなおさら、柳井報告は安全保障政策論として重要である。

 柳井懇談会は安倍前首相に近い保守派の学者の集まりのように思われがちだが、北岡伸一、田中明彦両東大教授、中西寛京大教授は、福田首相の外交勉強会にも名を連ねる。佐藤謙元防衛次官は防衛省改革に関する有識者会議の委員でもある。

 報告書は、ミサイル防衛の重要性など現在の日本をとりまく国際安全保障情勢を踏まえ、安保法制がどうあるべきか知恵を絞っている。どんな政権であれ、日本の国際的な立場を考えれば、この報告書を金庫に入れたままでは済まされない。

 福田首相が報告書に食わず嫌いであっては困る。それは日本の安全保障にとって困るからだ。

社説・春秋記事一覧