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社説:新型インフルエンザ 具体的手順の確実な詰めを

 出現が懸念される新型インフルエンザは、地震のような災害とは性質が異なる。ひとたび流行が起きると短期間で世界に広がっていく。いたるところが「被災地」となり、外からの支援は期待できず、外へ逃れることもできない。

 だからこそ、国や地域、組織、個人などが、それぞれのレベルで十分に備えておくことが欠かせない。

 先週、与党の新型インフルエンザ対策プロジェクトチームがまとめた対策推進の提言は、そうした準備を進める手がかりとなる。国の行動計画を一歩進める内容も含まれ、なかなか進まない政府の対策に一石を投じる意味がある。ただ、これで対応は十分というわけではない。

 たとえば、タミフルなど抗インフルエンザ薬の備蓄は現在、全国民の23%分が用意されている。これでは足りない恐れがあるとの判断から、プロジェクトチームは備蓄量を40~50%まで引き上げることを提言している。

 抗インフルエンザ薬が実際にどれぐらい必要か、常時見直し、足りなければ増やすのは当然だ。しかし、たくさん備蓄しておけばそれだけで安心というわけではない。実際に流行が起きた時に、どのように病院に配布し、感染者や患者に届けるか、混乱を避けるには具体的手順を決めておかなければならない。

 提言は、在外邦人が抗インフルエンザ薬を日本から持参することも提言している。この場合も、いつ、どのように抗インフルエンザ薬を服用するかの具体的指針が必要だ。

 ワクチンについても、まだ具体策が足りない部分がある。提言にある新型出現後に作るパンデミックワクチンの製造期間の短縮は、もちろん重要だ。それと同時に、鳥のウイルスを元に現在備蓄しているプレパンデミックワクチンについても、パンデミックワクチンについても、誰が、いつ、どこで接種を受けるかを決め、訓練もしておくべきだろう。

 薬剤による抑え込み以上に具体策が不足しているのは、「外出自粛」などソフト面での流行抑止策だ。シミュレーションによると、学校の休校や電車通勤の自粛などによって、感染者数を減らし、大流行を抑えられる可能性があるという。

 こうしたシミュレーションの精度を上げるとともに、結果をよく吟味し、新型の対策作りに生かすことが大切だ。外出自粛や交通機関の制限などは、新型が出現してからあわてて対応できるものではない。国レベルではもちろん、学校や企業でも具体的に考え、手を打っておく必要がある。

 将来のリスクに備えることは、心理的にも経済的にも簡単ではない。しかし、それを怠った時の損失を思えば、着実に備えを進める以外にない。

毎日新聞 2008年6月26日 東京朝刊

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