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社説

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株主総会―社長受難が生む緊張感

 株主総会シーズンが山場を迎えている。今年の焦点は、社長をはじめとする取締役の再任問題である。

 きっかけはアデランスホールディングスだ。先月下旬の株主総会で、社長をはじめ取締役7人の再任が否決されるという異常事態に陥った。昨年のブルドックソース問題を仕掛けた米投資ファンドのスティール・パートナーズが否決を先導した。業績悪化は社長の能力不足のせいだと責め立て、一般の株主も同調した。

 ほかにも再任拒否の動きが目につく。日本興亜損保では筆頭株主の米ファンドが社長の再任に反対を表明。Jパワー(電源開発)でも筆頭株主の英ファンドが社長の再任反対に動く。

 外国のファンドだけが騒いでいるわけではない。厨房(ちゅうぼう)機器販売大手の北沢産業では、筆頭株主の国内ファンドが社長らの再任反対で委任状集めに乗り出し、会社側は防戦に躍起だ。

 これら「社長の受難」には、どんな背景があるのだろうか。上場企業のうち、買収防衛策を導入したか、導入を準備中の企業は500社を超す。株式の持ち合いも復活しつつある。

 こうした動きに対して、守りを固めた経営陣があぐらをかいている、と不満を募らせる株主も多い。このため、ファンドなど活動的な株主が経営改革を要求し、それを聞き入れない役員の再任に反対することに、他の株主も一定の支持を与えているのだ。

 米国では、役員の信任・不信任が株主総会の主要な役割だ。日本でもそんな傾向が強まるのかもしれない。外国人の持ち株比率が高い企業ほど、その可能性が高まるだろう。

 こんな風圧に対し、目先の業績に振り回されていては中長期的な発展をめざせないと反論する経営者もいるだろう。しかし、その中長期的な発展のためにどんな戦略をもち、どんな努力をしているのかについて、株主へ丁寧に説明してこなかった経営者も多い。

 株主が重視する当面の利益と、中長期的な発展を調和させるビジョンを示し、株主を説得する経営者の能力がますます重要になる。

 終身雇用のなかで出世して役員になり、取引先を中心とした安定株主に守られる。株主の厳しい目がそんなぬるま湯を変えさせ、経営陣に緊張感が生まれるなら結構なことだ。

 ただし、株主にも自制と賢明さが求められる。長期的に会社を発展させるには、社員や取引先、企業の社会的責任も考慮しなければならない。

 アデランスでは社外取締役しかいなくなり、混乱している。代わりに誰に経営させるのか。そんな事態に備え、企業社会のなかに「経営のプロ」を増やしていくことも欠かせない。

 そういったことが整っていけば、経営陣の規律は確実に高まるだろう。

当直士官送検―2人だけの責任なのか

 海上自衛隊のイージス艦が漁船とぶつかり、漁師の親子が冬の海に消えたのは4カ月前のことだった。

 第3管区海上保安本部は、護衛艦「あたご」の操艦指揮にあたっていた当直士官2人を、業務上過失致死などの疑いで横浜地検に書類送検した。2人の判断ミスや過失が重なった結果、痛ましい事故につながったとの見立てである。

 自衛隊員の刑事責任の追及へ向けて、捜査は新たな局面に入った。

 それにしても最新鋭の自衛艦で、なぜこれほど安全が軽んじられていたのか。改めてそんな驚きと怒りがこみ上げてくる。

 そもそも双方の位置関係から、衝突回避の一義的な義務はイージス艦側にあった。

 衝突する30分近く前に、当直士官は漁船群の灯火を確認していたという。だが「漁船は止まっている。ぶつかる危険はない」と思いこみ、灯火の動きを継続的に追わなかったようだ。

 交代して任務を引き継いだ当直士官も、その後さしたる注意は払わず、漁船が目の前に迫ってくるまで自動操舵(そうだ)を続けていたと見られている。

 当直の人員配置を勝手に減らしていた時間帯があることや、外に立つべき見張り員が艦橋内にいたことも、すでに明らかになっている。

 広い海では小さなミスが人の命を奪うこともある。そんな危険と背中合わせの場所にいるという緊張感が、艦内に欠けていたと言うほかない。

 疑問はまだある。多くの見張り員を抱えながら、だれも漁船の接近に気づかなかったのか。だとすれば、見逃しのミスを補う仕組みはまったく働かなかったことになる。

 相手が小回りのきく漁船なら、舵(かじ)を切って避けてくれる。そんな甘えと思いこみが自衛艦側になかったか。

 20年前、海上自衛隊の潜水艦「なだしお」が釣り船と衝突したときも、やはり回避の遅れが指摘された。その反省は忘れられていたのだろうか。

 今回の乗組員だけが、たまたま注意を怠ったとは思いにくい。たるみは、海上自衛隊の組織全体に広がっていたと考えるべきだろう。

 真相を徹底的に明らかにする必要がある。今回送検されたのは責任ある立場にいた2人だが、問題をこの2人だけの責任に矮小(わいしょう)化してはなるまい。

 事故を受けて、自衛隊はいま、対策の検討を続けている。隊員の意識や安全教育はどうなっているか。人員配置は適切か。刑事責任の追及とは別に、足元から見直すべき課題は多い。

 過ちから教訓をくみ取ることは、事故を起こした者の最低限の責任だ。

 そうやって、今度こそ再発防止につなげなければ、犠牲になった2人は浮かばれない。

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