政府や労使代表らで構成する「成長力底上げ戦略推進円卓会議」は、今後五年間で最低賃金の全国平均を小規模企業の高卒初任給の最も低い水準を目安に引き上げることで合意した。
円卓会議は、政府が成長戦略を協議する場として二〇〇七年三月に発足した。当初は同年内にも最低賃金の中長期的な引き上げの方策をまとめる予定だったが、大幅アップを求める労働者側と経営への影響を懸念する経営者側が折り合わず、先送りされていた。
労使が協議を経て一応の目指すべき水準を設け、最低賃金の引き上げを図っていくよう確認し合ったことは大きな前進といえよう。しかし、双方の意識の隔たりはまだまだ大きい。
基準となる小規模企業の定義からしてそうだ。労働者側は、従業員が百人未満の企業を小規模企業とする。この場合、高卒初任給の最低水準は時給七百五十五円。最低賃金の全国平均が六百八十七円だから、六十八円の引き上げが必要となる。これに対し、経営者側はより給与水準が低い「二十人以下」を主張して譲らず、具体的な引き上げ額を示せないあいまいさが残る決着となった。
審議の場は、今月末にも始まる本年度の引き上げ幅の目安を決める厚生労働省の中央最低賃金審議会に移ることになるが、先行きの不透明さは否めない。
非正規雇用者が増えて賃金格差が拡大し、働いても生活費が賄えないワーキングプア(働く貧困層)が社会問題化している。安全網としての最低賃金の意味は一段と大きくなってきたといえよう。
政府は最低賃金の設定に当たって「労働者が健康で文化的な最低限の生活が営める」水準を考慮するよう明記した改正最低賃金法を〇七年に成立させた。これを踏まえ、〇七年度の全国平均の引き上げ幅は従来の年数円から十四円と大きく上回った。それでも、依然として生活保護費を下回る地域もある。労働意欲を損なわせてはならない。合意を具体化し、大きく踏み出すよう求めたい。
最低賃金のアップは、原材料価格の高騰や円高傾向にあえぐ企業の経営を一段と圧迫しかねない。とりわけ、非正規雇用者の比率が高い地方の中小企業は深刻だ。経営難や倒産による雇用切り捨てになったのでは何にもならない。
中小企業が最低賃金の引き上げに耐え得る体力をつけるためには生産性の向上が重要だ。政府も、労使一体となった経営改善を支えていく施策のさらなる検討が不可欠である。
海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」が衝突し、清徳丸の父子が行方不明のまま死亡認定された事故で、横浜の第三管区海上保安本部はあたご側が監視を怠り、回避動作が大幅に遅れて事故を招いたと認定した。
回避遅れは、衝突時だけでなく、衝突前の当直責任者もずさん運航をした過失の競合があったとして、三等海佐二人が業務上過失致死と業務上過失往来危険の疑いで書類送検された。
調べでは、衝突前の当直責任者は右前方に清徳丸を含む漁船団を視認し、海上衝突予防法で定められた回避義務が生じた。それにもかかわらず、見張りやレーダーによる監視を怠り、衝突の恐れはないと判断して後任の当直責任者に引き継いだ疑いが持たれている。
後任の当直責任者も引き継ぎ時に漁船団を視認した。しかし、漫然と自動操舵(そうだ)を続け、見張りを艦橋外の両脇に立たせないなど周囲への動静監視が不十分で、回避動作が遅れて衝突を招いたとされる。
三管本部によると、事故の発生時刻は二月十九日午前四時六分ごろで、あたごが漁船を最初に視認したのは午前三時四十分ごろだった。事故の二十六分前である。
早くから漁船の存在に気付きながら、なぜ当直責任者は衝突の恐れがないと判断したり、漫然と自動操舵を継続したりしていたのか。過失があったと、当事者の責任を問うだけで済ますわけにはいくまい。
海自潜水艦「なだしお」が一九八八年に釣り船と衝突した事故でも監視不十分で回避措置が遅れたとされる。今回の事故で、教訓は生かされなかったとしかいいようがない。防衛省全体で再発防止に取り組み、組織を徹底的に見直す必要があろう。
(2008年6月25日掲載)