ニュース:地方 RSS feed
富士山スロー登山のススメ “ラッシュ”を避けよう 山小屋関係者が提案
山梨県側の富士山北口登山道沿いの山小屋経営者らが、昨年から“山小屋でくつろぐ快適登山”を提唱している。山頂でご来光をみるというのが富士登山の慣わしだが、ここ数年、夏山では夜明け前の山頂直下の登山道に登山者が集中して危険な状態にある。時差登頂が必要で、ふもとの富士吉田市などは「富士登山ガイドマップ」でスロー登山プランを提案している。(牧井正昭)
富士山の世界文化遺産登録が現実味を帯び、昨シーズンの富士山は夏山期間2カ月で19万4000人が入山した。梅雨明け後の週末には1日8000人から1万人が入山する。山小屋で仮眠もせず一気に山頂を目指す者もいるが、大抵は7〜8合目の山小屋で仮眠し、夜明け前に登頂してご来光を見る。
山小屋に宿泊した登山者が午前4時半ごろに山頂に到着しようとするため、大半の登山者が4時前後には8・5合目から山頂直下の登山道に集中してしまう。通常なら約60分で到着するこの間が2時間もかかる。このため人の波に押されて自分のペースで登れずに体調を崩す人も出る。
昨夏、8合目の臨時救護所で手当てを受けた人は2カ月で450人。全員がこの時間帯というのではないが、うち300人が高山病。標高の変化に体が順応しないからだ。
登山道以外を登る者もいて、落石の危険さえもある。富士吉田市案内人組合も夜明け前の登山道で、「休む人は右側、上る人は左側を通る」よう指導するが、人をかきわけて登る登山者が後を絶たない。
16軒の山小屋経営者でつくる吉田口旅館組合は山小屋を居心地よくしようと、昨夏からはすし詰めの雑魚寝をやめ、宿泊定員の順守を徹底。評判が悪かったトイレも全部の山小屋で浄水循環式などに切り替え、快適性を向上させた。自動体外式除細動器(AED)も設置。そのうえで「ご来光を山小屋で楽しもう」と提案している。
北口登山道沿いのすべての山小屋からご来光を見ることができる。寝不足してまで登頂する必要がない。ご来光を見てゆっくりと朝食を取り山頂へ。そうすれば夜明け前の山頂下の登山道の危険性は除去できると旅館組合関係者はいう。
そもそも富士山頂でご来光を拝むという風習は江戸時代以降盛んになった富士山信仰の名残。道者の修行で夜明け前に山頂に立った。それが現代まで引き継がれている。
富士吉田市の富士山課担当者は「山梨県側の山小屋からは、静岡県側富士宮口や御殿場口と違ってご来光がみられるのですから、山頂でのご来光にこだわらなければ安全なゆっくりプランがお勧め」と話す。
◇
富士登山ガイドマップは富士吉田市と富士急行が合同で作製。お奨めの登山プランとは…。
■プラン1 午後5時ごろ、7〜8合目の山小屋に到着して、翌朝まで十分睡眠をとり、午前4時起床、山小屋でご来光を楽しむ。その後、山頂へ。
■プラン2 夜明け前に山頂に着きたい場合、5合目に正午には着き昼食。標高2200メートルに体を慣らし、夕方までに目的地の山小屋に着き睡眠。登山道が混雑する前の深夜に山頂を目指す。
■プラン3 2泊3日コース。1日目に5〜7合目の山小屋に1泊、2日目朝、山小屋でご来光をながめてから登頂。山頂のお鉢めぐりを楽しみ、復路は8合目辺りで1泊。3日目はもう一度、ご来光をみて、ゆっくり下山。
ガイドマップではこのほか、山小屋で富士山生活を楽しむ方法、ふもとから歩いて登る方法、電車やバスの時刻表も載っていて、登山前に入手すると便利な一冊。JR東京、八王子、横浜、大宮の支社管内駅にある。