【第33回】 2008年06月25日
秋葉原事件で動く「労働者派遣法改正」に欠落する論点
だが、今やあらゆる分野・職種に広がってしまった派遣労働を、時代を巻き戻すように絞り込むのは極めて難しい。財界はいっせいに反発するだろう。また、政府とて舛添厚労相の考えでまとまるとは限らない。それどころか、大臣の意向を平気で無視した通達を出す面従腹背の典型官庁が、厚労省なのである。
比較すれば、もうひとつの改正点のほうがまだ実現性があるかもしれない。
派遣会社が徴収する「中間マージン」の規制である。派遣会社による違法で巧妙な搾取は後を絶たない。それが、派遣という労働形態に付きまとう必然であり、派遣労働を制限できないのであれば、適切な中間マージンを厳格に規定して、派遣会社のピンはねを封じるのである。貸金業法を改正して上限金利を下げたのと同様の発想である(この上限規制について、最近にわかに批判が増えだした。来週当コラムで取り上げたい)。
「日雇い派遣原則禁止」に対しては、財界や派遣業界から「日雇いで働きたいというニーズが労働側にもある」という反論がある。そうかもしれない。だが、「日雇い」部分にニーズがあるなら、「日雇いの直接雇用」にすればよい。また、中間マージンを規制することへの反論にはなるまい。問題は、派遣という間接雇用構造にあるのだ。
ただし、仮に、中間マージン規制などが導入されたとしても、派遣会社が守るかどうかは別問題である。実は、厚労省は、「派遣先が派遣契約期間の満了する前に派遣労働者を解約する場合、派遣先は派遣先の関連会社で就業を斡旋しなければならない」という通達を出している。
先の事件で言えば、関東自動車は自社のグループ関連会社において、150人の就業を斡旋しなければならなかったのである。だが、関東自動車がそうした努力をした形跡はない。どんなに調べても、コスト調整のために派遣労働者を雇うメーカー系の派遣先企業が上記通達に従ったケースなど、皆無であろう。
法改正する以上に、それを遵守させることのほうが難しい。
第33回 | 秋葉原事件で動く「労働者派遣法改正」に欠落する論点 (2008年06月25日) |
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辻広雅文
(ダイヤモンド社論説委員)
1981年ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部に配属後、エレクトロニクス、流通などの業界を担当。91年副編集長となり金融分野を担当。01年から04年5月末まで編集長を務める。主な著書に「ドキュメント住専崩壊」(共著)ほか。
政治・経済だけではなく、社会問題にいたるまで、辻広雅文が独自の視点で鋭く斬る。旬のテーマを徹底解説、注目の連載です。