「レコード手帖。」は今日も更新しています。プロムナード・レコーズ店主、白井俊哉さんによるレコード買付日記がついに後半戦に突入。サッカー(ユーロ2008)もいいけど、レコードも、ね。

えーと、昨日の巻頭言のつづき、を書かせていただきます。今月初旬のゾニーズのライヴ音源に加え、友人のバンドの、先週日曜のライヴ音源を編集していたら…というお話です。

ゾニーズの音源の吟味を終え、友人のバンドのほうのデータを開き、編集作業を始めたときに、ふと思い出したことがありまして。それは、或る女性の発言のことなんです。

或る女性とは、友人のバンドが出演した件のライヴに競演していた、初めて観るシンガー・ソング・ライター。つまり「対バン」のお方、ということです。

彼女は、男性のギター奏者を伴い、ライヴ・ハウスに備え付けのグランド・ピアノで、次々と自作の曲を弾き語っていきました。曲の前には割りと長めのMCの時間を設け、丁寧な、されど聴き手にとっては必ずしも親切な行為であるとは限らない、楽曲の解説を施しながら。初めて聴く前からそんなに情報を盛り込まれたら、僕たちはその音楽から自由に想像を膨らますことなんか出来なくなるのに…と、1曲ごとに僕のアタマの上のクエスチョン・マークは大きくなっていったのですが、こんなことは本当は僕がいちいちここで書くまでもない、のかもしれません。

それよりも、4曲ほど歌い終え、さて次の曲は、といった直後からのひとときが、僕はずっと気になっていて。

「最近、●●なんかで、J-POPのカヴァー・アルバムがたくさん売られてますよね。だから、私も流行りに便乗して、カヴァー・アルバムを出してみました。」

そんな趣旨の発言の後、彼女はそのカヴァー・アルバムにも収録しているという、たいへんに有名な、1990年代の我が国の大ヒット曲、のカヴァーを披露したのでした。
ここで僕が気になっているのは、その某店の商売の方針でも、カヴァー・ブームという、聴き手としてはまるで実感のもてぬ現象でもなく。そして当然、この時期にカヴァー・アルバムをリリースしようと決めた彼女、もしくは彼女のスタッフの気持ち、でもありません。

気になっているのは、表現の場で、そんな発言が実際に飛び出したことと、原曲の存在と威光を踏まえているとは決して思えなかったパフォーマンスが終わった後で、多かれ少なかれ拍手が起った、ということです。これは、もちろん、原曲が何か、ということや、ライヴ・ハウスとその動員の規模、そして彼女の知名度がどれくらいなのか、ということとは関係なく。パフォーマンスについては、あくまでも現場にいた人それぞれが感じること、ではありますが。

とにかく、この一連の時間は、 僕にとっては俄かに信じがたく、なんとなくやり過ごせる度合いを遥かに超えるものでした。起った拍手も含めて、この世界で僕だけが知らない、流行・最新のセンスに基づく冗句だった、はたまた、発言は新作リリースについての、彼女独特の謙遜、照れ隠しであったと思いたいのですが。

皆さんは、上記の発言、どう思いますか? 軽く聞き流せば、やはり済むことなのでしょうか。

日々、買っている、聴いているレコードのこと、大好きな音楽のことを考えています。そして、新しい作品を作ることも。
彼女と同じ星、同じ国で、音楽制作に関わっているのだ、ということを肝に銘じながら、やっていければ、と思っています。

それでは、今日も。

(前園直樹)